久喜の我慢が実を結ぶ時

友達以上恋人未満

何で？
何で夏目はヤらしてくんないの？

あの劇的な告白から約ニヶ月、さぞやイチャイチャ仲良しこよしの熱々で俺達が過ごしていると思っているだろう。まぁ、楽しい日々は過ごしているよ。

あれから間もなく夏休みに入り、それでも毎日のように会った、大学で…… 。
調べものや勉強するのに図書館が効率良いと夏目が言うから、俺も夏目に付き合って図書館に。俺は特に勉強する事はなく、勉強している夏目の隣りでいつも寝ていた。
毎日夏目と一緒に大学行って、昼飯一緒に食って、一緒に帰り、日曜日には必ず何処かへ二人で出掛けて… って、目茶苦茶楽しいけどな、でもな、キスから先に進まない。真面目な中学生カップルかよ。
というか、キスさえもおぼつかない。
あの日から、キスをしたのは翌日の一回だけ。
友達以上恋人未満みたいな関係に、不満は無いと言ったら嘘になる。

俺に『愛してる』って耳元で囁いたお前の声は、今も胸の内で響いているのに… 。

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

大学三年生、就活が相変わらず頭をもたげるけど、適当に過ごしてる俺に比べて、夏目は公務員試験に向けて真剣に勉強している毎日。俺は変わらず夏目にゾッコンで、夏目は変わらずクールで純情だから少し物足りない。

友人宅で飲んだ時、ゲイのカップルが隣りの部屋でセックスを始めた様子に刺激を受けてヒートアップした俺が、我慢出来ずに夏目のモノと“兜合わせ”をしてしまった事から始まった。
互いに想い合っていたのに、勘違いやすれ違いのゴタゴタを経て、めでたく付き合う事になったのはニヶ月前。

『久喜、愛してる』

って、夏目が耳元で囁いた言葉が、今でも鮮明に耳に残っている。
夏目に変な虫が付いたら嫌だから、飲み会に戻って俺たちの事を宣言しようとしたのに夏目に止められて、その夜は仕方なく二人で仲良く帰った。

普通、そのままホテル、だよな？
または一人暮らしをしている夏目が、『俺の部屋に来ないか？』とか言ってもいいよな？

普通に

「じゃあ明日」

って、俺の手を一度ギュッと握ったかと思ったら、真っ赤な顔して手を振って、はにかんだ笑顔で地下鉄駅に吸い込まれて行きやがった。可愛いったらありゃしねぇけど…

え？ ヤんねーの？

暫く一人で地下鉄駅の出入口につっ立ってた俺。肩透かしを食らった様で、平常心に戻るのに難儀した。