第一章 挙式予定のハワイまできて式目前で彼と別れました

5/28
335人が本棚に入れています
本棚に追加
/106ページ
真っ直ぐにエレベーターに向かい、乗る。 「あの……」 エレベーターの中、彼は壁に寄りかかり腕を組んでなにも言わない。 どこに連れていこうというんだろうか。 彼はいい人そうに見えたが、本当に私は騙されていた? それならそれで、かまわない。 「入れ」 彼が私を連れてきたのは、スイートルームだった。 ここに泊まっているんだろうか。 リムジンに乗り、身に纏うのは仕立てのよさそうなスーツ。 いまさらながら彼の正体が謎だ。 「ハワイ滞在中、ここに泊まるといい」 「えっ、私、お金ないですから……!」 この旅行代と新居への引っ越し費用で、かなりのお金を使った。 それにあの人と別れた今、帰国したら新しい家を探して引っ越ししなければいけないし、少しでも節約したい。 「ハワイ滞在中の費用は僕が全部見てやるから心配しなくていい」 ソファーに座った彼が私へと目を向ける。 そこに座れという意味だと気づき、L字型ソファーに距離を取って腰を下ろした。 すぐに彼が身体をずらし、距離を詰めてくる。 「そんな、見ず知らずの方にご迷惑をおかけするわけには……!」 次の瞬間、いきなり唇が重なっていた。 目を閉じる間もなく、彼の顔が離れていく。 「これで君と僕はキスをした仲だ。 見ず知らずではない」 「……最低」
/106ページ

最初のコメントを投稿しよう!