終章・終わりなき戦い

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終章・終わりなき戦い

 一年後。  北の大地を駆け抜ける一人の青年。『氷の剱』を握り締め、彼は今日も敵と戦っていた。 「観念しろ、ソン・シュウ」  不敵な笑みを浮かべてこちらを睨みつける数人の山賊たち。じわじわと近づいてきては刃を振り回している。  シュウは一歩ずつ後退りした。背後に崖。その下では、太陽の光を浴びる海が果てしなく広がっている。 「ここで降伏するなら命は助けてやってもいいぜ」 「一生、(かしら)に従うことになるがな!」  山賊たちは下品な笑い声を上げた。  無表情を貫き、シュウはひとつため息を吐く。 「誰が貴様らに従うか。わたしの目的は、お前たち山賊から北の地を取り戻すことだ」 「はははは! でかい口は叩きやがる! 仲間もいねぇ、孤独なお前に何ができる!」  山賊たちは一斉に飛びかかってきた。  殺伐とした空気にそぐわず、あたたかい風が吹いた。桃色の梅の花弁が運ばれ、山賊たちとシュウの間を舞い散った。 「孤独だからこそ、仲間たちの無念を晴らしたいんだよ」  誰に向けたわけでもない独り言であった。シュウは瞳を閉じ、氷の剱を構え、足を踏みしめた。  瞬間、指先が冷たくなり──剱から氷の結晶が溢れ出てきた。  カッと目を見開き、シュウは山賊たち目がけて氷の剱を思い切り振りかざす。 「うわぁぁあ──!」  今の今まで威勢がよかったはずの山賊たちは、ばたばたと倒れていく。彼らの身体には氷柱が至る所に突き刺さっている。  決着がつくと、その場はしんと静まり返った。  シュウは後ろを振り向き、海を眺めた。水平線の向こう側には別の大地があるのだろう。  そっと氷の剱を腰にしまい、シュウはそっと頭を下げ拱手した。 「あれから一年の月日が経ちました。今宵は満月ですが、不吉な予感はしません。化け物の姿を見たという話も一切耳にしません。しかし戦いはまだ終わっていないのです。どうか、そちらで皆と共に見守っていて下さい。わたしは諦めません。この世の和平を取り戻すまでは。命尽きるまで、戦い続けましょう」  再び、風が吹く。梅の花々が、シュウの行き先を導くように水平線の彼方まで舞い飛んでいった。  仲間たちの想いを忘れずに、自らの意志を貫くまで、戦いはこれからも続く。 【了】
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