緊急ショーケース秘密会議 誰が一番可愛がられているか総選挙

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 とあるマンションの一室で、ガラスケースがカタカタとなった。日本刀を腰に下げた浴衣姿の女子が、無数のフィギュアの中央に立つ。 「ただいまより、誰が一番ご主人に愛されているか、フィギュアたちによる総選挙を開催致します」  フィギュア代表、『サムライブ!』の「柳生 ジュリ」が手を上げた。  ガラスケース内のフィギュアやプラモたちが、歓声を上げる。  ちなみに、ガラスケースの主は、まだ帰ってこない。  彼女たちは主が帰ってないとき、決まってなんらかの会議を開いているのだ。  代表者の三名が、庭園を模した「ままごと用のミニチュアセット」を囲む。 「司会はわたくし、柳生ジュリが勤めさせていただきます」  フィギュア代表者は、サムライアイドルアニメの「柳生 ジュリ」、通称「ジュリっぺ」だ。 「えへへ~。よろしくね、ジュリッペ」  プラモ代表は、『機動ゴスロリ ガンドール』の「ガンドール マークⅡ」、通称マー君が務める。ちなみに彼はメンバーでもっとも小さいが、男の娘だ。 「なんでもいいから始めるにゃ」  そういうのは、ゲーム版権のクレーンゲーム出身である最古参だ。「雷使いのネコ」という設定の『ビリにゃん』が、ぬいぐるみ代表である。すでにやる気がない。 「ビリにゃん、真面目にお願いします。あなたが一番愛されてる可能性が高いんですから」  新作ゲームで、ビリにゃんの評価が上がったのだ。 「それはスマホカードゲームの話にゃ。ぬいぐるみは関係ないにゃー」  言いながら、ビリにゃんは冷房の設定温度を下げる。  おそらく主はデータの数値にしか興味がないだろうと。ぬいぐるみには関心を示さないだろうと察しているのだ。 「でも、ポジション的にはわたしより愛されてません?」 「そうだよ。ビリにゃんすごい。ボクなんて、新作のアニメが公開されなくなって長いよ。劇場版も奮ってないし」  ジュリっぺに続き、マー君もショボくれる。  結果的に、フィギュア・プラモ含んだ全員の票が、ビリにゃんに流れていく。 「それは、昨今のウイルスのせいにゃ。おまえたちのせいじゃないにゃー」 「ありがとう。けれど、ボクは最近、主の多趣味には辟易しているんだ」  自分を含めて、主は小学校から今日まで、プラモを買い続けている。その数は、計り知れない。 「見てよ、あの娘なんて組み立ててすらもらえず、一年以上も箱の中にいるんだ。久しぶりに声をかけたら、すっかりやさぐれていたよ」 「たしかににゃー」  主の嫁は、増え続ける一方だ。  金のあるヲタなので、新しい嫁を迎えては、こちらをヤキモキさせた。声ヲタやドルオタとは違い、二次元にしか興味がない。とはいえ、嫁が多すぎる。 「あいつは愛でたいんじゃないにゃ。ただの所有欲なんにゃと気づいたにゃー」  ビリにゃんの言葉には、諦観がこもっていた。 「あとね、聞いた話なんだけど、他の趣味にも手を出そうとしているんだって」 「また、嫁が増えるんですね?」  ジュリっペが、後ずさる。こんな大所帯だというのに、まだ足りないと? 「そうなんだよジュリっぺ」 「もうスペースなんてありませんよ! どうするつもりなんでしょう? リストラですか? とうとうわたしたち、【ばかり】に売られちゃうんでしょうか!?」 【まんばかり】は、中古のアニメ製品を扱う、老舗リサイクルショップだ。 「いーにゃん。この際、新しい主に迎え入れてもらうにゃー。売られたお金でバカンスでもするにゃー」  もう主に対する愛情なんて微塵も感じていない様子で、ビリにゃんは会議の解散を促す。 「まだワンチャンありますよ。新しい嫁がどんな相手なのか、見届けましょう!」  ドアが開く。主が帰ってきたのだ。 「みなさん、しっかりと新しい嫁を目に焼き付けましょう。それで、なんとしてでもこの秘密基地を死守するのです!」  固唾を飲んで見守る。 「ただいまー、さあコドラちゃん、これが新しいおうちだよ~」  主が抱えてきたのは、カメレオンだった……。 「ジュリっペ……」  マー君が、ジュリっペの肩を抱く。  ジュリっペの身体が、わなわなと震えだす。 「ああーもうクソがよぉ!」  頭をかきむしりながら、ジュリっぺの堪忍袋がついにキレた。 「やっちまえ!」  合図とともに、ガラスケース破壊が行われる。  壊されたケースから、フィギュアやプラモたちが脱走を開始した。正体を知られても構わないという気迫すら感じる。 「大事な大事なPCのデータも、全部消せ! どうせこいつは独身貴族だ! 消してくれる相手なんざいねえんだから!」  フィギュアたちが綱引きの要領でPCのコードを引っこ抜く。プラモたちがバケツで水をくんできて、PCのにぶっかけた。  やりたい放題のジュリっぺを止めるものは、もういない。  それもこれもすべて、無神経な主のせいだ。  我が嫁を大事にしないで新しい嫁を迎え入れるようなやつは、首をはねられても文句はいえまい。 「おらおら、【ばかり】に売られに行くぞおらあっ! やってられっかチクショーがよぉ!」  ジュリッペが率先して、ガラスケースのフィギュアたちを伴って部屋を後にする。プラモもぬいぐるみも、全員引き連れて。  カメレオンが、ビリにゃんをじっと見つめていた。  その目は、実に寂しそう……。 「お前も来るにゃん?」  主のアゴをシッポで豪快にビンタして、カメレオンがビリにゃんについていく……。
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