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「 最初はセフレでも良かった。きっかけはともかく、そのうち恋人になれるかもしれないと期待してたの。賭けだったの」
手を伸ばし、そっと肩に触れた。伊予は振り払わなかった。
「 でも、無理だった。私はいつまで経っても賢人の恋人にはなれなかった。それに耐えられなくなったの」
二人の関係は誰も知らない事だった。賢人は誰に訊かれてもフリーだと答えていたし、他の女子社員からの誘いにも気軽に応じていた。そんな賢人を伊予が咎めることは一切なかった。
「 束縛して逃げられたくなかった。わがままも呑み込んだ。……でも、間違ってた。私はもっと自分を大事にするべきだったって気付いたの」
伊予は手を外し、涙を拭う。傍の賢人に視線を向け、微笑んで見せた。
「 あんなんじゃ、賢人どころか誰にも本当に好きになってもらえっこなかった」
「 伊予......」
「 賢人もちゃんと好きな人と誠実に向き合いなよ。後悔するよ」
伊予は天井を仰ぐと、大きく息を吐いた。そして、テーブルの上に置いたスマホを掴む。
「 タクシー呼ぶよ。こんな時間だけど平日だから直ぐに捕まると思う」
「 俺、今なら誠実に伊予と向き合えるよ」
「 今は寂しいだけだよ。あれだけ一緒にいたのに駄目だったんだから。賢人の相手は私じゃないと思う」
伊予はキッパリ言い切ると、スマホの画面を操作する。賢人はその手首を掴んだ。
「 ......ねえ、ヤらないよ」
「 じゃあ、ホクロ舐めさせて」
「 やだね」
「 ホクロ舐めないと死ぬ」
「 どんな病(やまい)だよ。ふざけんな。自分のホクロでも舐めとけ」
「 俺、ホクロないもん」
「 あるよ、脇の上んとこ」
「 へえ」
伊予が一瞬、しまった、という表情を浮かべたのを、賢人は見逃さなかった。慌てて平静を装った伊予を追求する。
「 自分では見えないもんな。なに?下から見えてたの?どんな角度から?」
「 知らない」
「 どの辺?舐めれんの?首つっちまわねぇ?」
「 良いから、帰んなよ!」
伊予は頬を赤らめながら、賢人の胸を押した。賢人はにやにや笑いながらその手を掴む。両手首を拘束したところで、上目で睨む伊予に顔を近付けた。
「 やっぱり伊予のホクロのが良い」
「 嫌だってば!」
「 そこ舐めてから他んとこも舐めたい」
「 させるか!」
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