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 ◇  それから半年後の六月某日。  白いタキシードを着た僕の前には、純白のウェディングドレスを着た小鳥遊さんがいた。    半年前は二度とドレスなんか着ないと彼女は言っていたけど、これだけはどうしても着てほしかった。  彼女は白いカサブランカで彩られたヴァージンロードを父親と途中まで一緒に歩いてきて、牧師と一緒に待っていた僕の前で立ち止まった。  僕たちは今日、ここで結婚する。  綺麗です、小鳥遊さん。  言葉で伝えたかったけど、緊張して何も言えなかった。  ヴェールに覆われたままでもこんなに綺麗だなんて、僕はどうしたらいいんだ。  式の直前に練習した段取りがもう頭から吹き飛んでいた。    やっぱり僕は普通の男だ。  今年で30歳になる、普通の男。  でも今日からは一人じゃない。 「誓いのキスを」  小鳥遊さんが少し膝を曲げて、ヴェールを脱ぎやすくしてくれている。僕は慌てて小鳥遊さんの方を向いて、ロボットのように肘を直角に固定しながらなんとか彼女のヴェールをめくった。  息を呑むほど美しい、僕の花嫁。  僕は無力だけど、きっと君を幸せにする。 「早くしろ、霧島!」  招待席から飛んできた門倉さんの野次で、僕はボーッとしていた自分に気づく。チラッと周りを見てみれば、佐々木さんや山下くんたちのニヤニヤとした顔が前列に並んでいるのが見えた。  ヤバい。ますます緊張する。  ドキドキしていた僕を、小鳥遊さんが上目遣いで見た。   「課長」  キスしてくださいって誘うような唇の形がめちゃくちゃ可愛い。  でも、は呼び方としてどうなんだろうか。  もう結婚するんだから、そろそろ下の名前で呼び合ってもいいと思う。 「課長」  だから、職場じゃあるまいし、そんな他人行儀な呼び方はもう──。 「課長! 起きてください!」
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