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9.しろとあおの秘密
大学を志望する受験生は模試続きの踏ん張りどころ。
美術室のソファは寝床の主が留守状態なので寂しそうにも見える。
ちょっぴり嘘だ…
私の心が、そう感じているからだろう。
このソファがやって来た時をふと思い出す。葵くんが眠っていて驚いたっけ…
星屑が煌めいて、火花が眩しくて、あんなにクオリアが騒いでいたのに。今では…
たくさん私に降り注いだキラキラの欠片は、太陽を写した水面の光のように私の中を穏やかに流れてる。
こうして美術室に独りで過ごしていても、なぜか温もりの感触を肌身に起こさせる…
新感覚になったのかもしれなかった。
そのクオリアは幾度もシュンとした雰囲気を紛らわしてくれていた。英語の授業も後ろが静かな週となり、そうして11月も過ぎようとする頃。
美術室に尋ねてきたのは、葵くん…ではなくて彼の担任だった。
「神崎来てる?」
「いいえ」
「何か聞いてる?」
首を横に振った。
「遅刻魔だけど無断欠席とか珍しくて。休みの連絡は絶対してくる奴なんだけど、携帯も繋がらなくてさ」
胸騒ぎがした。
すぐに私も葵くんにコールするも…電源が入っていないため、と遮断される。
なら!
スモックを脱ぎ捨てパーカーを羽織りリュックを背負うと道具は放ったらかして美術室を飛び出した。
荒い呼吸と押し寄せる不安。
もう心臓が飛び出して来るんじゃないかと思うくらい、ドクッドクッ鳴り止まない。
予感。あのときの予感がすぐ蘇った。
影のある青いオーラ…
やっぱり何か苦しんでいたんだ!
苦い塊が喉の奥でつっかえて重く痛みつける。後悔、そればかりが頭を巡った。
葵くん… ごめん。
「はぁっ… はぁっ… 」
――――ごめん、葵くん。
私、気付かないフリしてた。
顔は笑ってるのに心が青ざめた人、もう灰まみれなのに頑張るって無茶する人……
この目で見えてしまっても、嘘つきって言えない。だから見てないフリが癖になった。
――――葵くんのことも、自分の心も。
「…はぁっ、けほっ、くっ」
どうせ別々の道を歩むのだから…
葵くんは大学へ行って就職をして、やっぱり都会で生活するんだろう…
私は専学を出て就職するにしても、ここから遠くへ行けない…
家族に何かあったら私が助けなきゃ。
だから、特別な感情は持たない。
友達、がベストだとわかってる。
なのに。
本当に葵くんがいないってなったら、、、
こんなに心が痛くなる。
会いたくて、居ても立ってもいられない。
本当は葵くんに会いたいって、、、
寂しいのを我慢してただけなんだって…
もう誤魔化せない。
こんな時になって…
『好き』――――が溢れてしまうなんて。
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