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泥棒
「助けて」
僕がそう言ったので、泥棒は僕を外に連れ出してくれた。
布で目隠しをさせられ、いつも監視されて、自由のなかった僕は、泥棒のおかげで初めて塀の外を歩くことができた。目隠しはそのままだから、景色は見えないけれど、夜だからどうせ真っ暗だ。
泥棒は声を聞く限り、まだ若そうな男だ。
彼は優しかった。食べるものに困ってつい出来心で泥棒に入ってしまったのだと僕に事情を語った。そして「怖がらせてすまない」と言い、「あんなところに閉じ込められてかわいそうに」と同情してくれたので、根は悪い人ではないのだと思う。
今までこんなに長い距離を歩いたことがなくて、すぐに息が切れた。その度に休んで水やパンをくれた。食べるものに困って盗みを働いたのに、どうしてこんなに優しくできるのだろうと不思議に思う。
歩きながら僕も身の上話をした。
物心ついたときにはあの部屋に閉じ込められていて、親の顔も知らない。僕は呪われた人間で、不幸を生まないために仕方ないことなのだと言い聞かされて育った。
すると泥棒は泣きそうな声で、一緒に暮らそうと言った。彼は五人兄弟の長男で、弟が一人増えるだけだと優しく言った。こんなに優しい人が盗みを働かなければいけない世界が幸せであるはずがない。泥棒になるなんて悲劇であり不幸だ。
そうか、僕が閉じ込められていても、不幸は生まれるのだ。ずっと諦めていたけど、僕の今までの人生は無意味だったのだ。
「ありがとう。嬉しい」
彼にそう返事をした。
「じゃあ、もうこの目隠しは必要ないな」
彼は嬉しそうな声でそう言って、僕の目隠しを外す。
そして、僕の目に映った男は、僕の目の前で石になった。
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