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愛――。
それは確かに、愛なのかもしれない。
その愛のために、わたしは彼から離れた。
いや、離れようとしたのだが……。
◇◇◇
ブレーキペダルを踏みこみ、エンジンのスタートボタンを押す。
いつもなら、ドルドルと音をたててエンジンが回りはじめる。
でも、いまは、なんの音も、振動も起らない。
(え、なに? どうしたの?)
ブレーキペダルの踏みまちがいでないことを確認する。もう一度、スタートボタンを押す。二度、三度と押す。
同じだ。まったく作動しない。
もしかすると、スマートキーの電池を抜かれたのかもしれない。
といって、キーの小さなネジを外し、中を調べているひまなんてない。
はっと思って、顔をあげる。助手席側の窓を通して、別荘の玄関から、男が出てくるのが見えた。
蒼太だ。
頭の片側をさすりながら、よろよろと歩いてくる。さっきわたしが花瓶で頭を打ちつけたところが、傷になっているのだろう。
わたしはエンジンをかけるのをあきらめ、車から飛びだした。
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