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花子の春
これから新しい生活が始まるとしたら。
普通は楽しい日常を送りたいと思うだろう。まして、わたしは高校一年生になる。花の高校生。青春。
ともだちの声。太陽を反射する、額に滲む汗。緊張感漂うテスト。解放感に満ちた休み時間。廊下を摩擦する上靴の音。埃っぽい教室の匂い。黄昏に染まる放課後のグラウンド。教室の白いカーテン。
わたしもまた、青春の三年間を華々しく迎えたい、過ごしたいと思う、ありふれたひとりだ。
艶やかな自慢の黒髪が弾むポニーテール。真新しいブレザーの制服に身を包み、ナチュラルメイクで垂れ目をカバーして憧れの猫目――まん丸つシャープな目じり――に変身。
柔らかな春風を胸いっぱいに吸い込み、桜色に染まる校門をくぐる。
抜けるような青空の下、初めてできた友人たちと手を取り、希望に満ちた高校生活に踏み出す。
それが、わたし。
緋山灯子の青春――の予定だった。
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