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日曜日の午前中。
リビングのソファに腰かけ、海外の人気作家の新刊を読み進めていれば、不意に右横に感じた人の気配。
顔を上げようとするのと首筋に抱き付かれたのは、ほぼ同時だった。
その間際、小声で素早く何かを呟かれたようだったが、残念ながらよく聞き取れなかった。
繰り返してくれるのを期待し、暫し待ってみる。
しかし、彼女は黙ったまま。
秀王は読みかけの小説をソファに置き、眼鏡を外した。
「泉夏?」
その細い身体を抱き留め、促してやれば、ようやく彼女は開口した。
「……っかり」
「え?」
「さっきからずっと、本読んでばっかり」
面白くなさそうに、小さく吐露される。
「時々そっちを見てたのに、本に夢中で一度も気付いてくれなかった」
耳元で不満をぶつけられ、秀王は息を呑む。
いつの間にかすっかり、物語の世界に入り込んでいたらしい。
幼い頃から読書を始めると、寝食さえ忘れる傾向がままあった。
それは30を過ぎた今でも変わりなく、またしても集中し過ぎていたらしい自分を秀王は猛省した。
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