【後日談】意地っ張りなきみと幸せな恋を1

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「生吹、お待たせ」  いつも帰りに待ち合わせる学内カフェの一角に、慈が手を振りながら走ってくる。 「お疲れ。このまま帰れる?」  慈がこちらに到着したタイミングで生吹が今まで座っていた椅子から立ち上がる。慈がそれに頷いた。 「帰り、コンビニ寄って生吹んちに行ってもいい? 新作スイーツ食べ比べ付き合ってよ」 「え、スイーツ?」  正直生吹は甘いものは得意ではない。それでも慈は可愛らしく、いいよね、と首を傾げる。 「だって、オレ一人で食べられないし、でもたくさん食べてみたいんだよね」  カヌレが絶品らしいんだけど、新しくなったロールケーキも気になるし、限定の抹茶プリンも食べたいんだ――そんなふうに笑顔を向けられたら生吹に断ることなどできない。 「……分かった。全部食おう」 「やったー! 生吹ありがと、大好き!」  慈が生吹の腕に抱きつく。その体温を久々に感じ、生吹はそっと慈の手を取ろうとした。けれど、その直前で慈はするりと生吹から離れていく。  ――避けられてる?  そんなことはないと分かっていても、生吹の脳裏にそんな言葉が浮かんでしまう。生吹は、さっき慈の口から好きと聞いたばかりだ。  大丈夫、と自分に言い聞かせた、その時だった。スマホがメッセージの着信を告げる。見ると友人からのものだった。 『週末飲み会来れる?』というそれに、生吹はしばらく考えてから『ごめん、行けない』と返信する。すぐに『え? 例にもれずタダ飯だけど』と返ってくる。『でもごめん。もう行けない』と返したところで、慈の視線がこちらを向いていることに気付き、生吹はスマホ画面を慈に見せた。 「飲み会の誘い」 「……行かないの?」  その画面を見た慈が驚いて聞き返す。生吹はそれに頷いた。 「慈がいるから」  元々あの場で彼女を作ろうとか、そういう意図はなかったのだが、そのうち慈が付いてきてしまうようになって、そしてあんなことになってしまった。そう考えると、もう飲み会に行くことは出来なかった。 「……そっか。嬉しい」  慈が頬を赤くする。その表情が可愛くて思わず手を伸ばした時だった。またメッセージが入る。 『もしかして、生吹、彼女出来た?』  そのメッセージに生吹も、画面を見ていた慈も一瞬固まってしまう。さすがにまだ友人たちに自分たちの関係を話そうとは思えない。 『出来てないよ。とにかくごめん』と返してスマホをしまい込む。 「コンビニ行こうか、慈」  生吹が微笑むと、慈も表情を明るく変え、うん、と大きく頷いた。
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