side-story.メルヴィル・ウォーレン

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 彼は僕に自分の生まれた家である公爵家を裏切り、自分の父である公爵を売れという。  「僕にそんな事はとてもできません。」  「……メルヴィル君。ぜひ君に着いて来て欲しい場所がある。  君のお父上が同じ人間にどんな酷い事を行なっているのか。一度その目で確かめた上で判断して欲しい。」  ロダリク伯爵はそう言い、僕を馬車に乗せ人里離れたとある古びた建物に連れて行った。  *  「時間がないから必要なものだけ、その目で確認して貰えるかな。」  外に見張りを立たせたロダリク伯爵は、足早にその建物の地下に僕を連れて行った。  それを目にした時、僕はそれまで自分の事を何て不幸な子供なんだろうと思っていたが、間違いだと気付かされた。  何故ならそこには、僕よりも遥かに不幸で遥かに可哀想な女性や子供達がいたのだから。  強烈な悪臭に鼻がひん曲がりそうな薄暗い地下。  そばには汚染水が流れる排水溝があり、酷い劣悪な環境であるのが一目で分かる。    そんな地下室で、鉄格子の檻の中に閉じ込められた人々。  若い女性や男性、まだ幼い少年、少女……  彼らはまるで放置された野犬のように、ひどい扱いを受けていた。  口はだらんと弛み、その殆どが唾液を垂れ流し、僕らが誰かも分かっていないように、鉄格子の隙間から手を伸ばす。    「へへっ……だ、なんなさまぁ。」  「わたしを、わたしを買って下さい…いい子にしますからぁ……だから、どうか薬を…」  「薬をくださあい……」  「つい先日、この施設が見つかってね。  ここは君のお父上が管理している裏施設なんだよ。  何とかお父上に見つかる前にここから出してやりたいのだが…彼らをそう簡単には檻から出してやれないんだ。」  「何故ですか?」  「見ただろう?彼らは薬漬けにされている。  出せば薬を欲しがって暴れるだけ。  ……きっともう、まともに生活する事はできないだろう。」  「……っ、で、でも」    「これに関与しているのが君のお父上なんだよ、メルヴィル君。  こうして罪もない人々を薬漬けにして奴隷にし、商品として売り出しているんだ。  このままにしていれば、もっと多くの人々が人生を狂わされる事になるだろう。」  「で、でも僕は公爵家を裏切ることなど」  「だったら君はこの者達を見捨てる事ができるのかい?」
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