10.禁断症状

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『……あれ? 案外ダメージ受けてるんじゃない?』 佐代に殴られひとり取り残されたレストラン。 神楽は頬に伝う一筋の軌跡を見た。 「……?」 意味が分からなくて窓ガラスに映る自分をしばらく眺める。 恐る恐る指で頬に触れる。 確かに涙だった。 なんだこれ。 どうしてこんなものが……意味が分からない。 『彼女が大事だったんだね』 ひそひそと話す声に急激に居心地が悪くなり、頬を拭って店員にチェックを告げる。 カードで支払って立ち上がり店を出る。 そうじゃない。 まず、彼女でもない。 大事? 全然違う。 あの女は、神楽家の人間にとっては殺してやりたいほど憎い存在。 傷付けて、泣かせて、捨てたところ。 なんで『意外』みたいな反応されなくちゃいけないんだ? 何も知らない奴が勝手なこと言うな。 消化できない何かを腹に抱えた神楽は、家に帰る気にはならずタクシーに乗る。たどり着いたのは六本木にあるサパークラブ。 店内はゴージャスながら全体的に国際的な雰囲気が漂っている。DJが音を鳴らすちょうどいい騒音の中、カウンター席に座る。 このバーには、大使館勤務の人間や近くの企業の外国人が多数やって来る。今店内にいるのもほとんどが日本人ではない。ここに座っていれば、一晩の相手と出会える。 「隣、いい?」 グラス片手にナッツなんかをつまみながらぼんやりしていると、佐代とはまったく違う造形の女が現れた。 「いいよ」 神楽はフレンドリーに微笑み、その女性を迎え入れる。 目が青く、金髪で、背が高く、日本語じゃない。 行為がストレス発散でしかない価値観の、あと腐りなく別れられる女。 好みの女。
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