1 年下生徒会長のお願い

1/9
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/28ページ

1 年下生徒会長のお願い

 わたしは、あくびを噛み殺しながら壇上に視線を向けていた。  桜咲く四月。  ついに高校3年生になってしまった新学期。  休み明けのぼーっとした頭での朝礼。  壇上には就任したての生徒会長が堂々と話をしているが、内容は頭に入ってこない。ついに受験生かあ……と憂鬱な気分が頭の中を占める。  わたしの態度はまわりの女子生徒からしたら、信じられないものだと思う。周りを見まわすと、男子生徒は優と同じように退屈そうだけど、女子生徒はキラキラとした目で生徒会長の話を真剣に聞いている。  彼女たちの視線を追うようにもう一度壇上に視線を戻した。  今の生徒会長は二年生。四月にしては早い就任だった。年明け早々、前生徒会長が問題を起こしたせいで急遽早めの生徒会選挙が行われ、新しい生徒会長が就任された。  それが彼――五十嵐 海人くんだ。  壇上で堂々と話をする彼は、昔の面影などなく、別人のように見える。  小学生の頃に泣き虫だった可愛い『海人くん』は、高校生になってとんでもない変貌を遂げた。かわいい女の子みたいだった顔は、甘い部分は残したまま男らしく成長している。わたしよりも小さかったはずの身長が今では見下ろされるのが当たり前だ。勉強もできてスポーツもできてさらには生徒会長。 ここまで大きく変化した人を、わたしは知らなかった。  五十嵐くんの挨拶が終わると女子生徒からの盛大な拍手。その勢いに気圧されるままわたしもパチパチと軽く拍手をしていた。五十嵐くんは照れ笑いを浮かべている。「海人くんかわいー」という声が何処からか聞こえてきた時、壇上の彼と目が合ったような気がした。この距離で見えるはずはないと思いつつも目をそらす。  わたしは、五十嵐くんに見つめられるとどうしたらいいかわからなくなる。
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!