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飛び込み止めたら付き合う事になった
「おっさん、何やってんの?」
そう言われて我に還ると、真横を快速電車が通過して行った。
声をかけて来たのは、高校1年生くらいの男の子だった。ちょっと、いやかなりヤンチャそうな。
日焼けしたような傷んだ茶髪で、整髪料でカチカチに固まった前髪をヘアゴムで留めて、耳の上にはヘアピンを差している。制服も着崩して、ワイシャツの下には赤いTシャツ、そこからネックレスの鎖が見えていた。
「え、あ……」
返事をしようにも、すぐに言葉が出て来なかった。
『何やってんの?』という質問に答えられないくらい、自分が何をしようとしていたのか分からなかった。
「だいじょーぶ?」
男の子はそう続けて顔を近付けてきた。僕よりも背が小さくて、クリッとした大きな目で見上げてきた。
「す、すみません……」
咄嗟に謝っていた。
次の瞬間、ここがどこで、自分が何をしようとしていたのかを理解した。そして、僕はへたり込んでしまった。
そこは、駅のホームだった。
肩を貸してくれた男の子に支えられ、ひとまずホームのベンチに座った。
「あの、あの……」
心臓がバクバクする。口が乾いて、うまく言葉が出て来ない。頭の中がまだ混乱していた。何から伝えればいいのか、考えられない。
「いーよ、ゆっくりで」
男の子はそう言って、ドサッと音を立てて僕の隣に座った。プラスチックのベンチが揺れる。面倒臭そうで、怒っているみたいだった。
迷惑をかけているという、罪悪感が込み上げてくる。
「も、もう、大丈夫なので……」
何とか声を絞り出した。高校生なら、学校の時間もあるはずだ。
でも、男の子は僕の顔を覗き込んで、
「大丈夫じゃねーじゃん。どーみても」
と言った。
自分がどんな顔をしているのか分からない。けれど間違いなく、まずい顔をしている。
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