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慰め
冒険者ギルドへは私とセザールの結婚の事は知らせていない。
なのでセザールが意味あり気な視線を私に向ける事に関しては
「付き合ってる…という事なんだろうね」
と解釈されたらしく、セザールの彼女だか女友達だかよく分からない女達から
「話がしたい」
と呼び出されるような災難が続いた。
私の方では話はないので
「仕事に関係ない話を知人でもない人とする必要はないです」
と言って呼び出しに応じたりはしなかった。
どんな目に遭わされるか分からないからである…。
セザール関連で特に粘着な女はーー
『銀狼の牙』というパーティーのリーダーを務める女冒険者のサビーナ。
『銀狼の牙』は男二人女三人のパーティー。
戦士のガイエと
女魔法使いのスーラ
盾役のジャンと
女弓士のダリエ
その四人はそれぞれカップル。
サビーナも自分の男をパーティーに引き込んで三組のカップルで六人パーティーにした方がバランスが良さそうだが…
サビーナがご執心なのは『漆黒の飛翔馬』リーダーのセザール。
セザールが引き抜き不可なのでサビーナだけがパーティーの中で少し浮いてる感じではある。
サビーナが務める斥候役はセザールと同じ。
斥候役は土地勘のない場所へ初めて依頼で行く時などに必要な職能なのだけど、気配察知や罠解除の恩恵を実感できないパーティーメンバーばかりだと有り難みが感じられないらしく粗末に扱われやすい。
斥候は暗器を使う暗殺術に長けていて性格的にも何を考えてるか分かりにくい人が多い。
この所、私の身の回りで不審な出来事が続いているのは、おそらくサビーナの仕業だろうと思う。
街を歩けば、急に看板が落ちてくる、頭上で窓ガラスが割れて破片が降ってくる、外壁が剥がれて降ってくる。
そういった不審な事故(?)が続いている。
(殺す気か!)
と腹立たしく思うのだが…
脅し半分、本気で殺す気半分、といった所なのかも知れない…。
私の予想ではサビーナが犯人。
だけど勿論、セザールには予想は述べず、事実だけ
「こういう事があったよ」
と報告している。
サビーナが犯人という証拠はない。
セザールは私との結婚後も普通にサビーナと仲が良い。
夕方頃に二人が一緒に居るのを見かけると、セザールはその夜は帰宅しない。
二人で夜通し何をしてるのかなど詮索する気も起きないくらいに明らかだ。
私はそういうセザールのやり方に傷付いてはいたけど、気持ちの何処かで安心してもいた。
(…所詮は政略結婚の相手。これで「愛されてるかも?」って錯覚に釣られて半惚れするようなバカな自分を戒められる…)
そう思って安心できた…。
でもやっぱり寂しいと思う。
寂しいと思ってしまう自分がワガママなのか、よく分からない。
自分も浮気してやる!
セザール以外の男と寝てやる!
だのと明確に意図して欲望を持ったという訳ではないけど…
それでも、そういう意図は自分の中に潜在的に芽生えていたのだと思う…。
******************
考えてみればフォンタニエさんは出会った当初から良い人だったと思う。
彼は鈍感な所もあり、自分なりの良心に従って動いている人なので決して私にとって都合の良い存在にはなってはくれないものの…
初めから友好的で優しい人だったと思う。
「フォンタニエさんはご結婚はされないんですか?」
と相手の女性問題に関して若い女が質問する事自体が
「貴方に異性として関心を持ってます」
という婉曲的アプローチになってしまう可能性とかも
薄々察知はしていたものの…
私は夫婦問題のアドバイスを求めるような形でフォンタニエさんのプライベートに踏み込んだ。
そうした結婚に関する質問の答えはーー
「…ソフィー嬢はもしかして噂話とかには聞き耳を立てずに、知りたい事は直接本人に訊くタイプなのかな?」
といった性格確認だった。
まぁ、普通に考えて。
イケメンで人当たりも良くて優しい男性が女にモテない筈がない。
フォンタニエさんは実の母親が処刑された犯罪者。
実の父親が精神を病んで自殺した王子。
王族の血を引きながら処遇を持て余された孤児。
後ろ盾を得るために子供の頃から大貴族に媚びて生きてきた人だ。
父である王子の母親の実家ーー。
つまり父方の祖母の実家に引き取られて必要最低限な教育は施して貰ったが爵位を持つわけでもなく社会的地位は不安定。
夫に先立たれた裕福な有閑マダムら複数と関係を持って
若いツバメさながらに引き立ててもらって身を立てている。
勿論、そういったお金持ちのオバサン達に対して
感謝こそあれど愛情はない。
そんな彼からしてみれば私のような苦労人の美少女から興味を持ってもらえた事は純粋に嬉しかったらしくて
「結婚するとしたら、自分の置かれている状況に理解を示してくれる人に限るだろうね」
と事情を説明してくれた。
つまり結婚後もフォンタニエさんはお金持ちの有閑マダム達と関係を持ち続けるし、もしかしたらマダム達のご機嫌を損ねないために妻を蔑ろにせざるを得なくなるかも知れない。
そんな事情も呑んで丸ごと受け入れてくれる女性となら結婚できるだろうとの事だった。
(それって「結婚しない、できない」って事だよね…)
と思いながら
「寂しくないんですか?」
と尋ねたら…
「そりゃぁ寂しいよ。…でも自分の境遇に不満を持っても仕方ないから、そういう事は余り考えないようにしてるかな?」
「…考えずにいれば、それで何とかなるものなんでしょうか?」
「いいや。何ともならない。自分の人生上の問題に関して考えずに居たとしても何一つ解決はしない。…でも寂しい者同士で慰め合うような事はできるよね?」
そう訊かれて
私は盲目的に頷いていた。
彼に慰めて欲しくてーー。
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