恐竜に乗れた日

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 「元太君、何かあったら連絡してきなよ?」  「うん、ありがとうね。馬場さん」  八時半頃馬場さんも帰って行った。私を送って行くと言ってくれたけど、毎度毎度悪いから、この後人と会うと嘘を吐いた。  けれど、本当はそれだけじゃない。ゴミげんが心配だった。  馬場さんを見送ってすぐの玄関外、生温い風が吹いて苔の匂いがした。  外に出たままのゴミげんと私。雲の多い夜に向かって大きく伸びをしながら「希菜さんは帰らなくて大丈夫?」と首を傾げるゴミげんのことを見た。  「ねえ」  「どうしたん?」  「おじさん今日ここに泊まるんだよね?」  「そう、じゃけん。それが?」  「不安じゃない?一人で」  ゴミげんが、伸びをするのを止めた。重力に逆らっていた手が元に戻る。  「あ……心配してくれよん」  「まぁ」  言葉にされて顔が赤くなった。だって、もし自分だったとしたら、私のお母さんがもう長くなくて、お父さんも仁志もいない状況だったとしたら、私はどうしようもなく不安になると思うから。  「私、泊まるよ?今日」  「え!」  「もちろんゴミげんとお父さんの二人の時間を邪魔しないように、一人で恐竜の部屋にいるから」  必死に話す私を見て、ゴミげんはキョトン顔を徐々に緩めた。  「ありがと〜。でも大丈夫なんよ」  「え?」  「不安じゃけど、今日、おかんが仕事終わってからこっち帰ってくるんよ」  「そうなの?」  ゴミげんは笑って頷く。  「じゃけん、大丈夫。希菜子は帰り?送って行くけん」  「駄目だよ。おじさんが一人になっちゃう。……私、一人で帰れるから」  「……そう?」  「でも、お母さんが来るまでここにいていい?」  「え?ええよ、でも俺のこと気にせんで」  「ううん。違うの。私が気になるの」  「希菜子は、優しいね」  唇をギュッと引き結んで右左に首を振った。  ううん。ゴミげんのほうが優しいでしょ。優しすぎること、ずっとずっとわかっていたよ。出会った頃、わかっていて冷たくしていた。この人なら何言っても、どんな態度とっても、許してくれる気がしたから。  そんなわけないのにね。  人の感情は感染るって昔、お母さんが言っていた。ゴミげんが私を優しいと言うなら、そうなれるのは、私が優しいゴミげんと一緒にいるからだと思う。  「それなら、もうちいと話しましょう」
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