恐竜に乗れた日

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 その日、きっと今までで一番ゴミげんと話をした。好きな食べ物とか、将来のこととか。子供の頃の夢とか。    ゴミげんは、子供の頃、恐竜に乗りたかったらしい。その事を同級生からからかわれていたみたいだ。  「俺小四まで、恐竜に乗りたいって夢があったんよ。  ビビるじゃろ?じゃけん、みんなそんなんおかしいって言ってた。友達もオカンも先生も。笑いながら絶対無理って」  小学四年生にもなって、そんな幼稚な考えを持っていること、そんなゴミげんをみんなは変だと冷やかした。けれど、おじさんだけがずっとゴミげんと一緒に恐竜に乗れる方法を考えくれていたみたいだ。博物館に行ったり、一緒に本を読んだり。私からしたら羨ましいくらいいいお父さんだと思う。  「オトンは色んな本を見て、ネットを見て、俺と一緒に恐竜に近付く方法を考えてくれたけん。その結果、あの恐竜を作ることになったんじゃけど、もう俺はその時、本物の恐竜には乗れんことに、気付いてて、こんなん本物と違う!って言うてしもうた。せっかくオトンが作ってくれたのに俺、あれに乗らんかったんよ。  それなんに、今更時々、一人で恐竜乗るんよ。こんなでかなって、乗る意味無いんじゃけど、なぜか乗るんよー」  ゴミげんが私のほうを向き笑って言う。目尻に皺を刻ませて。昼過ぎの光のような朗らかな顔で。  「最後に言おうかのと思う。恐竜に乗れてよかったって。て、まだ死んどらんのに不謹慎か」  ゴミげんはガハハと、また笑う。笑っているけど、もしかすると本当は、悲しくてどうしようもないことを隠しているかもしれない。  ゴミげんは喋っている間、頭に手を当てたり、目を大きく見開いたり、体を前後ろに揺らしたりしながら、全身で、私に話してくれた。  少し前はそういう仕草がカッコ悪くも恥ずかしくもあった。でも今は、その動作の間に割入って彼の頭を撫でてあげたい気分だった。  
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