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自分を必要としてくれる人達が居るのなら、私は大事にしなければ。だって――"本当の私"には、もう、何も無いんだから。
「――もぉ、おっっそいよ詩月!」
「ごめんごめん!! 今日全休の日で、寝過ぎちゃった」
「寝坊かよ!! 今日は奇跡的にセッティング出来た経営学部との飲みなんだからね!? ちゃんと気合い入れてよ!?」
「も、勿論です!!」
大学の校門前でやたらと目立つ、派手な髪色、露出の多めな服装をした女子の集団。私が慌てて駆け寄ると、全員が呆れたような眼差しで私を一瞥する。
「え、なんか詩月、目の下クマやばくない? ちゃんと化粧で隠しなよ」
「服もさあ、流石に普段着過ぎない? もっと可愛いの無かったの!?」
「一応合コンみたいなもんなんだからさあ」
「あ、あー、ごめんね。慌てて出てきちゃったから」
へらっといつものように笑って答えると、彼女達は「まあ詩月ってそうだよね」と特にそれ以上言及することなく、どこか諦めに近く直ぐに私から興味を逸らす。
「お店、此処から近いよね」
「路地裏のイタリアンじゃなかったっけ?」
「あ、私! 場所調べてきたのでご案内します!遅刻したお詫びに……!」
「まじ? 詩月助かる〜」
「よろしくー」
手を大きく上げて集団の先頭に急ぎ足で繰り出す。私への軽い感謝を置いて、彼女達は直ぐに今日参加するメンバーの話に花を咲かせ始めた。
歩道を歩く自分と、彼女達の姿が傍の飲食店の窓ガラスに映った。着慣れた白いブラウスは一応アイロンはかけたけれど、確かによれは目立つ。膝丈のスカートのシルエットも柄も多分、流行からは程遠いものなのだろう。後ろに居るお洒落な彼女達とは全然違う。
一番前でやたら明るく笑いながら前に繰り出す自分の足は、ガラス越しに滑稽に空回って見えた。馴染めていないことは、分かっている。
――分かっていて、それでも此処に居るのだ。
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