在りし日々と炎の記憶 ‐Ricordi di vecchi tempi e fiamme‐

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   ある日、屋敷に訪れた他の同胞から伝えられたひとつの報せが、両親を、そして誰よりも兄であるダイアンシスを驚愕させた。  それは、とあるヴァンパイアの一族が人間によって滅ぼされてしまったというものだ。その一族とは、いつの日にか兄と親しげに話していたあの女性の血統で、情報を漏洩したのは、自分達と付き合いのあった人間の1人らしい。  愕然とし言葉を失う兄だったが、やがてその表情は怒りに満ちてゆく。そして感情に委せるかの如く怒声を上げ、俯き部屋を後にする。  なんとなく兄の様子が気になったダリアは、そっと後を追い廊下に飛び出す。そこで見たのは、床に両膝をつき蹲り、嗚咽混じりに彼女の名を呼び慟哭する兄の姿だった。  初めて見る兄の姿に、ダリアはただその場で見守ることしか出来ずにいた。周囲を憚らず悲観に暮れるその様子から、恐らく彼女は、兄にとってそのくらい大切な存在だったのだろう。  それ以降、兄はすっかり変わってしまった。いつも自分に向けてくれていた笑顔も消え、ほとんどの時間を自室で過ごすようになった。  とある晩のこと。トイレに目が覚めたダリアは、瞼を擦りながら廊下を歩いていた。すると、兄の部屋のドアからオレンジ色の灯りが漏れており、引き寄せられるようにそこへ向かう。  
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