在りし日々と炎の記憶 ‐Ricordi di vecchi tempi e fiamme‐

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   当時のダリアは、現在とは違い人見知りの傾向が強く、離れた建物の陰から2人の様子を見守っていた。少し尖った耳や笑顔の端に覗く牙などの身体的特徴から、その女性は自分達と同じヴァンパイアらしい。 「ダイアンシス?」  本当なら兄の元に駆けて行きたいところだが、持ち前の人見知りがそれを拒み、不安な気持ちを孕んだ声色でぽつりとその名を呼ぶ。  やけに親しげで、自分や家族に向けるものと同じ社交辞令ではない笑顔――彼女は兄にとっての何なのだろうか。2人の関係性を把握し切れないまま、時間が過ぎてゆく。  暫く様子を観察していると、こちらに気づいた女性が木漏れ日のような笑みを向ける。だがそれを見たダリアは相変わらず建物の陰に半身を潜め、戸惑いを露にはにかむばかり。  少なくとも、悪いヴァンパ(ひ と)イアではないようだ。  僅かにだが警戒心が薄れたこともあり、溜め息と同時に肩の力が抜け、半身はそのままにひょこっと顔だけを覗かせる。  しかし2人が仲睦まじく談笑し抱き合うその姿を見て、いつか兄が自分の元を去ってしまうのではないかと、言い様のない不安に襲われてしまう。  そして、その日は突然訪れた。  
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