第18話 寝言

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第18話 寝言

 昨夜のあれは何だったんだろう。僕の寝たふりは意外にも長く続かず、結局再びやってきた睡魔に夢の世界に連れていかれた。  そこで見た夢は……目が覚めた時、思わず僕は自分のパジャマに手を触れさせた。  ――――良かった。パジャマ普通に着てた(ちなみにどんな夢を見ていたかは内緒だ)。  こっそり寝返りを打ち、すやすやと寝息を立てる晄矢さんを覗き見る。まだ6時にはなってないと思うけど、熟睡状態のようだ。彼は天井を真正面にとらえ仰向けに寝ている。両腕は上布団の上に行儀よく置かれていた。  ――――今朝はまだ寝てていいのかな。昨日、1時過ぎてたもんな。  弁護士は激務と聞いていたが、マジなんだなと思う。けど、それは僕も覚悟のうえ、というか願ったりだよ。働いてないとなんだか不安になる。根っからの貧乏性なんだね。 「う……んん」  おっと、晄矢さんが寝返りを打ってこちらを向いた。僕は慌てて布団をかぶって天井を仰ぐ。  梅雨入り間近、この頃の朝は早くて、カーテンの隙間からもう日の光が漏れ始めている。深緑色の落ち着いた天井に洒落たデザインのライトがぶら下がっている。  僕は自分の学生用アパートの無味乾燥な電灯を思い出す。  ――――なんだか場違いな世界に来ちゃったんだな……。  改めて思う。もそもそと隣で晄矢さんが動いている。もしかしたらもう起きるのかもしれない。 「りょう……」  え……。今、僕のこと呼んだっ? 僕は首だけを晄矢さんに向けた。目の前に彼の大きな手が迫ってきてる。  ――――ひえっ!  晄矢さんはまだ寝てる。寝ぼけてるんだろうけど、怖いよっ。僕は自然に体を左へとずらす。ベッドの端に体がかかって落ちそうになった。  もう無理。ドキドキして仕方ないし、とっても眠れそうにないっ!  ――――だめだ。起きよ。  僕は寝るのを諦めてそっとベッドから抜け出た。スマホを覗いたら5時半だった。そうだ、シャワーを浴びて勉強しよう。これがあの、噂に聞いた朝シャンか!?   高校生の時、意識高い系男子が朝から髪を洗ってきたとか言ってた。そんな朝早くから銭湯開いてるのかと思ったらそうじゃなかった。みんなにめっちゃ笑われた苦い思い出だ。  さっきまで晄矢さんの寝言にドキドキしたのも忘れ、僕はバスルームに直行をした。  しかし、この後僕は更にドキドキすることになる。全く朝から刺激が強すぎるよ……。
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