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 いつもの病室で、僕は目覚めた。目覚めると同時に、何かが大きく違っていることに気づいた。これか、と僕は思った。  病室の見た目はいつもと同じだった。この一年、ずっと閉じ込められているうんざりする個室の景色。細長い部屋、小さなベッド、ナースコールのコードが垂れ下がった壁と、機能的なだけの棚とテレビ。壁にある丸い時計は、3時過ぎを指している。窓から陽射しが差し込んでとても明るいけれど、どんなに窓を開けても、夏も秋も冬も春もほとんど入ってこれない場所だ。十二歳の誕生日も過ぎて、また夏がやって来たけれど、窓の外の夏は去年よりずっと遠ざかった気がする。外に出たい外に出たい外に出たい。土の上を歩きたい。サッカーがしたい。ぶっ倒れるまで走りたい。僕はうずうずして仕方がなかった。  このうずうずした気持ち自体、最近は感じることもなくなっていたのだ。ただ体のだるさと、諦めのような麻痺した感情しかなかった。今、突然に感情が戻っている。  慎重に、僕はベッドの上で上半身を起こした。胸の痛みに備えて自然と身を硬くして……痛みが来ないことに気づいた。用心して、右に左に体を捻じってみたが、痛みは来ない。気づけば、この一年ずっと付き合ってきた体の不調が全部なくなっていた。いつも吐きたくなるような気持ち悪さもない。唾を飲み込むと変な味がする口の渇きもない。常に全身を覆っていた切れ目のないだるさも、綺麗さっぱり消えていた。
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