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順路通りにひととおり歩き、そしてイルカショーを見た後に、館内のカフェで小休憩をする。さっきスタッフに撮ってもらったツーショットの写真を一緒に見ている。
写真の中の私達もしっかり恋人同士で、客観的に見たらこんなふうに見えるのかと興味深かった。そしてその幸せそうな姿は、自分自身なのに、なんだか微笑ましくも思えた。
「佐倉、今日はありがとう」
ティーカップをソーサーに置き、柴田が言う。終わりを告げるような言葉なので、不思議に思った。
「もしかして目的達成?」
「あぁ、しっかり見てもらった」
「そっか、よかった。じゃあもう演じなくてもいい?」
柴田の目から視線を外し、ふぅっと息を吐いた。強く意識したつもりはないが、おそらく声のトーンもさっきまでと違っているだろう。
「切り替え早っ! せっかくだから帰るまで演じてほしいな。今日のデート楽しかったから」
柴田はニッと笑う。どこまで本気の発言なんだろうと思いつつ、負けじと応じる。
「帰るまで? じゃあ家に帰ったらやめていいの?」
すると柴田は目を細め、私をじっと見つめた。
「俺の家でも仲睦まじい恋人モードでいてほしいって言ったら応じてくれるわけ?」
「どうかなー」
「本当は演技じゃなくて楽しんでたくせに」
図星をつかれて少し恥ずかしくなる。
「何それ。いや、そもそも付き合ってる彼女に対して『仲睦まじい恋人を演じろ』なんて、意味わかんないんだからね。応じるだけで良い彼女だし、感謝してよね」
「うん。佐倉は良い彼女だよ。ありがとう。でも普段の塩対応に慣れてるせいか、なんというか、今日は新鮮だった」
「塩対応って失礼な」
「わかってる、普段は照れてるだけだよな?」
「はぁ? 全然違うから」
恋愛に没頭するのはなんとなく恥ずかしいことのように思っていたけど、今日そんな姿を演じてみて楽しいと思ったのも事実だった。柴田も嬉しそうだったし、私も普段からもう少し好意を表に出した方がいいのかもしれない。こんなこと演技でもなければ絶対知ることができなかったから、結果オーライな気もする。
視線を感じたので前を見ると、柴田は嬉しそうにニヤニヤしている。
「何笑ってるの?」
「いや、俺の彼女は可愛いなと思って」
「もう、やめてよ。あと、お見合いはちゃんと断ってよね」
「わかってるって」
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