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仲睦まじい恋人
「どうして?」
それは、会社の同期の柴田に「仲睦まじい恋人のふりをしてほしい」と言われたとき、一番に出てきた言葉だった。
なんでも、取引先のお偉いさんにお見合いを勧められているようで、恋人と過ごしている姿を偶然見せることで、円滑に断りたいのだという。
しかしやはり意味がわからない。
「そのお偉いさんに、普通に恋人がいるって伝えたらよくない?」
「できるだけ、そういうハッキリしたことを言わずに回避したいんだよね。悪い人じゃないから見ればわかってくれると思うんだ」
悪い人じゃないならなおさらお見合いをしたくないと真実を言えばいいのにと思ったけれど、そんなことができるならやっていると思うし、いろいろ事情があるのだろう。営業部の人達が日々理不尽と戦っているのは、総務部の私でも知っている。
「こんなこと佐倉以外に頼めないし。一日だけでいいから、一目見ただけで仲睦まじい恋人だとわかるよう演じてほしい」
柴田はいつもキリッとしているのに、時折、人懐っこい大型犬のように見えることもある。懐に入るのが上手というか、さすが営業部のエースなだけある。ちょっとずるいなと思いつつ、必死な様子がかわいそうなので協力してあげることにした。
「わかった、いつ?」
こうして、私は来週の日曜日に柴田の「仲睦まじい恋人」を演じることになった。
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