夕餉

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夕餉

トントン、トントン。 夕餉の仕度をする音がする。 台所の小窓から夕陽の光が家の中を照らしている。 まだ腰の曲がっていない祖母の後ろ姿を、幼いわたしが見ている。 トントン、トントン。 味噌汁の香り、野菜を切る包丁の心地よい音。 そして、夕焼けの色が温かくこの空間を包んでいた。 わたしは、祖母の背中に抱きついた。 トントン、トントン……。 包丁の音が止み、祖母のシワシワの手がわたしの頭を撫でた。 「もうすぐで、ご飯できるからね」 優しい声で祖母は言う。 トントン、トントン。 その祖母はもういない。 この包丁の音は、わたしが出している音。 拙い包丁の音色を奏でながら、わたしは夕餉の仕度をするのだった。
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