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1曲目:ミス・ミステイク
「お願いします!! 今から俺と一緒にリトプリのライブに行って下さい!!」
「…………は?」
「一生のお願いだから!! 聞いてくれたら下僕にでもなんでもなるから!! ホントマジでガチで真剣にお願いします!! あなただけが最後の希望なんです莉奈お姉様あああああ!!」
家に帰って開口一番、仕事でくたくたになった私への「おかえり」という温かい言葉も「おつかれ」という労いの言葉も差し置いて、なんだかよく分からない事を叫びながら土下座なんてものをしているこの男は、残念系男子高校生代表の我が弟、佐伯史裕十七歳である。
「えっと……なに? まずどういう事か説明してくんない? なんで突然ライブ? ていうか誰それ?」
埋まりそうなほど額を付けていた床からぐおっと勢いよく顔を上げた史裕は、血走った目を見開かせながら大声で言った。
「誰ってLittle Princessだよ!! 姉ちゃんも聞いたことあんだろ!?」
「……リトル……なに?」
「はああああっ!? リトプリ知らねぇの!? 嘘だろ!?」
いまいちピンと来ていない私を信じられないとばかりに目を見開いて一瞥すると、史裕は今にも噛み付きそうな勢いで語り出した。
「〝 Little Princess〟、通称リトプリ! 今人気急上昇中の五人組アイドルグループのことだよ!! ほら、デビュー曲が数ヶ月後にまさかのオリコン一位取ったって話題の!! スマホのCMとか出てんだろ!?」
「……アイドルグループ?」
「そう!! 将来立派な姫になるため日夜修行に励む五人の小さなお姫様!! メンバーにはそれぞれシンデレラ、白雪姫、人魚姫、かぐや姫、眠り姫っていう担当の姫が設定されてんだけど、全員マジで姫レベルの可愛さ!! しかも顔だけじゃなく歌もダンスも姫レベルなわけ!! ちなみに俺の推しプリは人魚姫担当のまりん姫ね!」
「……はぁ」
史裕は更に熱く語る。
「デビューした後も初心忘るるべからずとばかりに地元のライブハウスで定期的にライブしてくれててさぁ〜。ほら、リトプリって下積み時代この辺で活動してたからその縁で! なんつーか、今で言うローカルアイドル的な? ていうかローカルアイドルからの全国デビューって普通にすごくね? さすがだよな姫ってる!! ……っと、ごめんごめん話が逸れたわ。で、撮影オッケーだったイベントのパフォーマンスを撮ったとある騎士が……あ、騎士ってのはファンのことね! リトプリのファンはそう呼ばれるんだ! その騎士が動画サイトに上げたんだけど、ダンスの完成度の高さが話題になってわずか二週間で再生回数二百万超え!! それがきっかけでデビュー曲の売り上げが伸びに伸びて発売から七ヶ月後についに一位を取ったっていう異色の経歴を持つ、とにかく今人気急上昇中の大注目アイドルなんだよ!! 俺もすっかりハマっちゃってさぁ!!」
プリンセス? ナイト? 姫レベル? 推しプリ?
……ごめん、お姉ちゃんちょっと何言ってるかワカンナイ。
私は出てきた溜息を無理やり飲み込んでから口を開く。
「あのさ、そんなウィキペディアみたいなアイドルの細かい情報はいらないからさ、とりあえずどういうことなのか説明してくれる?」
私がそう言うと、史裕はしゅんとして話し出した。
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