真夏の因果律

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 そんな沈黙と視線に負けたのは、この研究室で次に責任のある、助教の地位にある深瀬百音(ふかせももね)だ。このままでは宇宙物理学研究室が宇宙になりかねない。そんな危機感も働いてのことである。しかも未だ桐山はパソコンを見たまま、こちらを見ないのだから余計に怖い。 「実は田舎にある家の片づけを命じられた。一人で片づけるのは到底不可能だから、誰か手伝ってほしい。ああ、もちろんその家に泊まれるし、電気ガス水道は止まっていないから大丈夫。それに食事代は出すよ。自炊になるけど。あと、日当一万円出す」 「えっ」 「おおっ」 「一万円」  その数字に反応したのは、日々かつかつの生活を送る大学院生と研究員だった。自炊とはいえご飯代が浮く上に、一日一万円がもらえる。これほど破格の待遇があるだろうか。しかし、田舎の家の片づけ。これだけの情報ではまだ安心できないものだ。一体何をやらされるのか。一人では無理とはどういうことか。不安要素が多い。 「田舎ってどこですか。っていうか、それ、先生の家なんですか」  一万円が欲しい男、博士課程一年の小島将人(こじままさと)が手を挙げて質問する。それに桐山はようやく顔を上げると
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