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三十六話(最終話)
王城に向かい、国王陛下に東の洞窟の奥、北の未開発の大地、南の大穴に入る許可をもらった。子犬ちゃん――ベルーガ様もお元気そうにしていた。
旅の出発は1週間後――それまでに旅の準備を済ませると、シエルさんは言った。王城の帰りにいくつかの店に寄り、これからの生活に必要な物と、旅にいる物を買う。
(お揃いのパジャマ、歯ブラシ、コップ……)
「なんだ? ルーは機嫌が良さそうだな」
「えぇ、シエルさんとお揃いの物が増えるのって、嬉しい」
「俺とお揃いの物か……あの、イチゴのパジャマは外では着ないからな。ルー、そこの書店による」
「フフ、はーい。可愛いのに」
「可愛いが……ラエルとか、ベルーガに見られるのは嫌なんだよ、からかってくるだろう。ルーも気になった本があったら、持って来て」
「わかった」
シエルさんが書店で地図、歴史書、魔導書を選ぶなか。
私は最近読んでいなかったなぁ、と1冊の恋愛小説を選んだ。
「その恋愛の本だけで、いいのか?」
「うん」
私が選んだのは『魔法使いの旦那様』という本。内容は旦那様のことが大好きな、奥様の日常を書いた恋愛の本だ。
「ありがとう、シエルさん」
「いいや、欲しい物があったら遠慮なく言ってくれ」
と言ったので、食材の買い出しに向かった。
旅に出る一週間。
2人で旅の準備をしながら、シエルさんの好きな。
甘い卵焼き、生姜焼き、親子丼、オムライスなどの食事を作る。トンカツ、唐揚げ、オムレツも好きみたい。私としてはお好み焼き、コロッケ、うどんもいいかな。
これからずっと一緒だから、少しずつ作っていこう。
お昼過ぎのお茶の時間、書庫でシエラさんは地図を見ながら行き先を決めていた。その隣で、買ってもらった本を読んでいる私に。
「ルー、夕飯はハンバーグが食べたい」
可愛いことを言ってくる。
「わかった、あとで買い出しに行ってくるね」
「いや、俺も行くよ。それと明日のお昼頃、ラエルが旅の打ち合わせに来るから」
「はーい、昼食は何がいい?」
「話しながら摘めるサンドイッチかな? 作るとき、俺も手伝うから」
なんとも、優しい婚約様である。
ラエルさんとの話し合いも進み、初めは南の大穴から回ることになった。アンサンテ国を旅だったのは春頃――南はもう直ぐ夏が来るから、水着も持っていこうと話している。
「明日は、水着を買いに行こう」
「ええ」
なんでも、南の海に地中遺跡があるとかで。
シエルさんとラエルさんが言うには、南の大穴付近には滅多に入れない所だ――この機会に、存分にまわろうと言い出した。
1ヶ月後――お昼前。
私達はクレの仲間を探しに、福ちゃんに乗って旅に出る。ここはストレーガ魔法大国だから、お昼でも姿を消さなくてもいいらしい。
「よろしくお願いします」
「クレ、そんなにかしこまらなくていい。みんな今からの旅にワクワクしてるから」
「そうそう、私も楽しみだよ」
クレがホッとした表情を浮かべた。
「主人、行きます」
「おう、ウルラ頼む! みんな、準備はいいかぁ!」
「いいよ。ガッド! 久しぶりだからって、ルーチェさんに甘えない!」
「いやっス。姉さんの側は気持ちいいっス」
「まったく、ガッドは甘えん坊だな」
「ベルーガ、それはお前もだ! 子犬の姿だからってルーに近付くことは許さん!」
「ええ、いいじゃん」
旅の前日、ベルーガ様が子犬の姿で大きなマジックバッグを持ち、シエルさんの屋敷に現れた。なんでも、父上――国王陛下に、この国をシエル達と一緒に見て来いと?言われたらしい。なぜ子犬なのか、王子とバレないようにするためだと語った。
それと、もう一つ。
「……母上が妊娠3ヶ月とわかり――父上があたふたする姿を見られたくなのか……僕にも行って来いと追い出された。この旅の途中か、終わる頃には僕に弟が妹が出来てる」
「なに? 王妃様がお子を? それはめでたい」
「おめでたいねぇ」
私達の2度目の旅の始まりはベルーガ様の、おめでたい話から始まった。
[魔力なし悪役令嬢の"婚約破棄"後は、楽しい魔法と美味しいご飯があふれている。② 〜ストレーガ国までの帰路編]
第二章、お読みいただきありがとうございました。
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