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#1 「地球とサーターアンダギー」
地球の重い重力にも負けず、地球外生命体のコザル王子が空中を漂っている。
「セイチョン、本場のサーターアンダギーのお味はいかがニョロ?」
碧く透明な海と白い砂浜に寄せては返す波音が結構烈しく耳に届く。
「うん、サイコー!王子の揚げ物は天下逸品だね!」
親指を突き上げ「グー」サインで応える。
生地に味つけされたボール状の揚げ物を熱々の内にひと口かじる。
「そうニョロね。それは好かったニョロ」
職業ドーナツ屋。それが王子の地球での肩書だ。
何処で修得したのか?コザル王子の揚げ物は非常に美味である。
「王子ってホントッにドーナツ作るの上手いよね。何処で修行してたの」
ひとつ目をあっと云う間に平らげ、ふたつ目に手を伸ばす。
「んーウマウマ、こりゃたまらん」などと云いながらコザル王子お手製「サーターアンダギー」を頬張る。
「ニホンのトーキョーニョロよ。ボクのお師匠さんはさくらいくんニョロね。さくらいくんちのドーナツ屋さんで修業したニョロよ」
宇宙人のコザル王子でも修業時代なんてのを体験していたのかと感心する。
「へぇ~、王子にお師匠さんがいたんだ?今はどうしてるの?その人」
王子の師匠とは一体どんな人物なのだろうか。
大いに気になるところだ。
「トーキョーでドーナツ屋さんしてるニョロよ」
ドーナツ師匠は健在なのか。
「今もやってるんだね。お師匠さんには逢いに往ったりしてるの」
この間まで王子は「夜天家」月の邸宅にいたので、地球での再会は出来なかったはずだ。
「ボクは独り立ちしたときから、さくらいくんにはあっていないニョロよ」
王子の決心なのか、それは意外な返答だった。
「そうなの。王子のことだから「うにょ~」とひとっ飛びで逢いに往ってるのかと思ったよ」
どうやら、そうではないらしい。
「うん、ボクはもっともっと美味しいドーナツを作れるようになったら、逢いに往くニョロね」
それはなんともとても自分に厳しいことだ。
「王子はすごい真面目なんだね。意外だな」
逆に感心してしまう。
星葉は王子とは真逆でちゃらんぽらんだからだ。
「まじめにがんばるニョロよ」
真面目な王子はがんばるために、再びフライヤーの下へ戻ってゆく。
「うん、ガンバッテ!美味しいドーナツたくさん作ってちょ」
何気なく云った言葉が後の祭りと化すのであった。
「お、う、じぃ、もう、たべられないよぉぉぉ」
目の前には山盛りのサーターアンダギーが盛られた大皿が鎮座している。
「そうニョロ?ゆっくりたべるニョロ、まだ、いっぱいあるニョロよ」
この宇宙人は悪魔か?と思わずにはいられない。
「王子の人でなしぃぃぃ!」
思わず星葉が絶叫する。
「そうニョロよ。ボクは人でないニョロね。コザル星人ニョロ?」
「・・・・・」
ぐうの音も出ない星葉の完全なる敗北が決定した瞬間である。
地球は今日も平和である。
「いーさ、もう!こうなったら、全部、喰ってやるー!!」
星葉の「サーターアンダギー自棄喰い大会」
開幕のゴングが鳴った。
END.
チャネリングファンタジー小説 「夜天一族」番外編
「銀河とアフタヌンティー」#1「地球とサーターアンダギー」
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