決着

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決着

「ウアアアアア!」  ヨシタカが悲鳴を上げると、落谷升男はますます喜んだ。 「いい声だ。興奮するねえ。さあて、どんな死に方がいい? 刃物か? 紐か? 恰好いい狂い死にをさせてやろう」 「……」  ヨシタカは、体を屈して黙った。下を向いていて表情は見えないが、全身を震わせている。 「ついに諦めたか。ハッハッハ! どうだ、昭継! 俺様の勝ちだ!」  勝利を確信して、曾祖父の名前を叫ぶ。 「ククク……」  今度は、ヨシタカが笑い出した。 「とうとう気が狂ったか」 「違う。俺は、この時を待っていたんだ。お前が俺の体に入る時を」 「はったりしたところで、無駄なあがきだ!」  ヨシタカが頭を上げて立ち上がった。 「落谷升男、お前は俺の怒りに火をつけた。これはお前が受けるべき罰だ! ウオオオオオ!」  ヨシタカは、怒りのパワーを爆発させて体温を急上昇させた。たまりにたまった怒りの感情は強力で、瞬間的ではあったが、人の耐えられる温度をはるかに越えた。 「あっちいいいいぃぃ!」  落谷升男は、熱さに耐えられずヨシタカの体から飛び出した。 「熱い! 痛い!」  落谷升男の霊がヨシタカから飛び出した。全身が炎に包まれている。  熱さと激痛に耐え切れず、グルグル回転して暴れたが、火は消えない。むしろ、さらに燃え盛った。 「俺に何をした!」 「怒りの炎ってやつだよ。お前は俺を極限まで怒らせた。人間の精神力をなめんな。意識があるまま、熱さと焼ける痛みに耐えてみろ。これがお前の味わうべき地獄の苦しみだ!」 「貴様も道連れにしてやる!」  落谷升男が突進すると、ヨシタカはサッと避けた。  落谷升男には、もう一度襲い掛かる余力は残っていなかった。 「ギャアアア! 助けてくれ!」  悲痛な叫びをあげた。それが彼の最後の声となった。  やがて、ジュワーと音を立てて燃え尽きた。  力尽きたヨシタカは、ガックリと膝をついた。ゼェゼェと、肩で大きく息をする。 「ようやく終わった……。木佛家の因縁がついに解消されたんだ……」  体は疲れていたが、長い闘いが終わった喜びを嚙み締める。  アルルが現れて労う。 「よくやりましたね」 「こんなに効果があるとは驚いた」  ヨシタカは、ずっと考えていた。  どうすれば、落谷升男を倒せるのかと。  物理的な攻撃が効かない相手。祓っても、祓っても、諦めないで戻ってくる執念深さ。  そこで考えたのが、落谷升男を自分に憑依させて、体内の熱で焼き殺す作戦だった。  油断させるために、わざと弱弱しくなった演技で誘い込んだ。  ここで大切なのは、一瞬でも恩情を見せてはいけないということだ。気持ちが揺らげば、勝つことはできない。そして、同じ手は二度と使えない。だから心を鬼にした。落谷升男は、憑依する前にも煽ってきて、さらに怒りを増幅させられた。それも良かった。  アルルには、邪魔しないようあらかじめ頼んでいた。勿論、マリア観音様にもアルルから事情を話して許しを得ていた。それで、落谷升男が近づきやすくなるように気配を消してくれていた。落谷升男は、まんまとそれに騙された。いわば、ネズミ捕りに誘い込まれたネズミであった。 「多分、あいつ以上にてこずる霊なんて、金輪際現れないだろう」  ヨシタカは、過去にもいくつかの悪霊を祓ってきたが、その中でも、落谷升男は間違いなく最強クラスだったと言えよう。 「さてと、後は、ここからどうやって脱出するかだけだな」  ヨシタカは、ぶら下がった階段を見上げた。  こればかりは霊能力でどうこう出来る問題ではなく、ピンチであることに変わりはない。
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