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解毒薬と違って、中和剤はほとんどの中和剤を新しく開発しなければならない。
しかし解毒薬という土台があるからか、その開発は解毒薬の時よりもはるかに順調だった。
「……だからって、一年半で全部揃うのは早すぎません?」
作業台の上にずらりと並ぶ瓶を眺めながら、どこか遠い目をしたトリシアさんが言った。
しかしそんな彼女は一年足らずで死黒手の解毒薬を習得している。
「トリシアさんにそう言われるのは心外なんですけど……」
「あれはヴァン先生の書き方と指導のおかげですから」
正直にそう返すと謙遜が返ってきた。
「……ありがとうございます。でも教わる側にやる気がなければ何にもならないので、それは間違いなくトリシアさんの実力ですよ」
素質があっても、使わなければ無いのと同じ。
正しく努力をして魔法薬師としての才能を開花させたのはトリシアさん本人なのだ。
そう伝えると、トリシアさんは驚いたように目をみはり、それから嬉しそうに顔をほころばせた。
「え、えへへ……ありがとうございます、ヴァン先生」
照れたようなやや小さい声でそう言い、それからいつもの元気な表情を浮かべる。
「あたし、これからも頑張りますからっ!」
いつだって、彼女のその一言は頼もしい。
「ありがとうございます。心強いです」
だからそう返して、作業台の上の魔法薬たちと向き直った。
「――そろそろ始めましょうか。何か気づいたことがあれば教えてください」
「分かりました!」
雑談モードから頭を切り替え、集中して中和剤をまとめる作業へ移る。
基本は解毒薬の時と同じだ。
少しずつまとめ、魔法薬が馴染むまで時間をおいてさらにまとめる。
解毒薬と違うのはまとまった魔法薬の色だけで、宝石のように透き通った青は変に濁ることもなく甕の中で揺れている。
さらにそれをまとめ、無事に魔法薬は一つにまとまった。
不思議なことに、淡くなっていった解毒薬とは違って中和剤の青は徐々に濃く深い青へと変わっていく。
例えるなら夜空のような――いや、あの時連絡船の窓から見た海のような色だ。
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