三ヶ月と少し

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三ヶ月と少し

 「……っあー、言っちゃった」    照れたように顔を覆い、目の前の彼がしゃがみ込む。  迷いが確信に変わった。変わってしまった。行き場のない思いに視界が滲む。それでも、パッと顔を上げる頃にはすっかり元通り。  もはや隠すことは無くなった。そう言いたげに彼の口からはツラツラとあの子を思った言葉が出てくる。それを貼り付けた笑顔と共に見つめる自分が、どうにも滑稽で仕方が無かった。  フラリ、思わず意識を飛ばしてあの頃へと旅立つ。  出会いのことなんてもはや覚えてすらいない。いつの間にかテストの点数を競って、彼はいつの間にか唯一対等に、取り繕わずに話すことのできる存在になっていった。無遠慮に言葉を投げかけて笑い合えていた、今思えばそう思っていたのはこちらだけだったのかもしれない。  誰もいない教室で、二人駄弁る放課後。ふざけて付き添わされた二人きりの買い出し。何の為にそんなことをしていたか、なんて。そんなもの、火を見るより明らかだった。  昼休みの体育館で昼練に勤しむ君を探し、一度(ひとたび)階段を使うとなれば態々遠い彼方の階段まで足を運び、テスト期間ともなれば残り少ない生徒にこれ幸いと教室を出てその姿を見つけ出す。  今だって、テスト最終日の放課後。君がいさえしなければ、試験直後に自習室(こんなところ)など来るものか。そのお陰で、こうして君と廊下で二人話せて、そのせいで、こうして残酷な事実を突きつけられているのだが。  現へと舞い戻って来た。化けの皮は、未だ剥がれないまましっかりと笑みを浮かべている。
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