王国探偵:第1回活動報告(その1)

1/1
9人が本棚に入れています
本棚に追加
/30ページ

王国探偵:第1回活動報告(その1)

・王国探偵:第1回活動報告 俺の名前は、ダニエル。ジャービス王国という小さな国の第4王子だ。上に3人の王候補の兄がいるから、よほどのことがない限り俺に王位が回ってくることはないだろう。 王国内での勢力争いは、第1王子から第3王子の後ろ盾となっている有力貴族の間で行われている。俺を支援しても何のメリットもないから、貴族も寄ってこない。 表面上は気を使ってくれているようだが、実際は舐められている。陰では「窓際おじさん」と言われているらしい。俺は王子と言われるほど若いわけではないが、正しくは「おじさん」ではなく、「おうじ(王子)さん」だ。ダジャレではない。 なお、ジャービス王国の設定を説明しておくと、俺は異世界に転生していないし、前世の記憶もない。そして、この世界には魔法はない。普通の世界だ。 ちなみに、ジャービス王国ではジャービス・ドル(JD)という通貨を使っていて、1JD=1円と思ってもらえれば、イメージしやすいだろう。 さて、俺は今、真夏の穀物倉庫にいる。室内は40度を超えているだろう。こまめに水分補給をして脱水症状に気をつけなければ。 なぜこんなことになったかというと・・・、あれは1ヶ月前のことだ。 (1)探偵業務のはじまり 父王(ジャービス王国)が緊急で俺を含めた王子4人を招集した。ジャービス王国王はよく思いつきで会議を招集する。国民の人気取りのために、何か王国で問題が発生すると、それを解決するためにアクションを起こす。クーデターを起こさせないためには必要なのだろうが、身内からすると対応が面倒くさい。 「こんな匿名の投書があったのだが、見てくれるか?」そういって1通の書類を渡してきた。 第1王子のジェームスが見て、次は第2王子のチャールズに回ってくる。問題の書類を見たジェームスとチャールズの顔は、憂鬱そうだ。最後に俺のところに回ってきた。 ********************************************************* 第13穀物倉庫の穀物が何者かに盗まれているようです。 一度調査をお願いします。 ********************************************************* なるほど。第13穀物倉庫がある場所は、ウィーザー領だから、第2王子チャールズの派閥か。おおかた横領だと思うが、他の王子は正面から揉めるのを避けたいから、関わりたくないのだな。それに、チャールズが見たということは、ウィーザー領主のティモシーに伝わるだろうから、バレないように裏工作してくるはずだ。調査しても不正の証拠は発見できそうにないな。 書類を見終わった後、俺は国王にそれを渡した。 ジャービス国王は全員の顔を見渡しながら呟く。「こういう投書はよく来ているが、専門的に取り扱う部署がない。今回の件をきっかけにして、新しく内部調査部を作ろうと思うのだが、どうだろう?」 意見を求めているように見えるが、実際はすでに決まっていて報告だ。議論の余地はない。全員そのことは理解していて、ババを引かないための駆け引きが始まる。 まず、第1王子のジェームスが口火を切る。 「王国として国民の意見を聞く必要がありますから、国王の提案には賛成です。ただ、私はあいにく陸軍の戦力強化のためのプロジェクトが忙しくて、調査に必要な時間がとれません。それと、穀物倉庫があるのはウィーザー領なので、チャールズが内部調査をするのは適していないでしょう。」 第1王子のジェームスは軍総本部の司令官をしている。頭はあまりよくないが、外面がよく人気は高い。ジャービス王国では男性の就職希望先の第1位が軍隊で、優秀な人材が集まりやすい。司令官が誰でも務まるはずだ。バカだが性格は悪くないので、俺はこいつのことを嫌いではない。 「兄さん。ウィーザー領だから私が犯人、と決めつけるのはどうかと思いますよ。」チャールズは少し気を悪くしたようだ。 第2王子のチャールズは、主要な行政手続きを行う内務大臣をしている。政策の決定は貴族院での可決が必要だが、議会への起案や決議事項の公表・実行は内務省が行う。横柄な態度をとることも多く、国民からは嫌われている。俺もこいつのことは嫌いだ。 フォローに入ったのは第3王子のアンドリューだ。 「兄さんたち、落ち着いてください。今回は誰が犯人かを調べることよりも、誰が内部調査部を管理するのが適任かということだと思います。私も外交で国外にいることも多いので、ダニエルにやらせればいいのではないでしょうか。総務省の業務と似ているから、適任だと思います。」 第3王子のアンドリューは、周辺各国と外交を行う外務大臣をしている。言わば我が国の顔だ。話し上手で外国要人とやり取りするのには適した人材だが、国益が絡んでくるので際どい交渉も多い。当然のことながら、外面は良いが、性格は悪い。俺はこいつのことは嫌いだ。 しかし、怒らせると怖いのでなるべく衝突しないように心掛けている。 「そう言われても、私も進行中のプロジェクトが立て込んでいるので、時間が取れそうにありません。進捗が遅れてご迷惑をお掛けするのも、あれですから・・・」 そして、俺、第4王子のダニエルは総務大臣をしている。総務省という組織を率いてはいるが、要は「何でも屋」だ。面倒なことは全て俺のところにやってくる。素直に従うのも嫌だから、一度断っておく。 責任の押し付け合いはしばらく続き、最終的にはジャービス王国王が、内部調査部の業務は総務省と似ているからとの理由で、俺がやることになった。 内部調査部長に就任することになったわけだが、『部長』だと気分が上がらない。 自分の中では『探偵』になったということにしておこう。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!