染める、染まる

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染める、染まる

 「おばさん染め物師だろ。俺のことくんない?」  赤、青、黄、緑、紫。色とりどりの布地が並ぶ店先。  染め物師のアクアは目を見開いた。  声の主は10才くらいの少年。フケだらけの赤銅色の髪。薄汚れた服に裸足。明らかに浮浪児としか思えないみすぼらしい見た目とは裏腹に、その瞳だけはぎらぎらとした光を宿している。  「いってーな!なにすんだよおばさん」  「いいからこっちに来な!」  アクアは垢だらけの細い腕をがしっ、と掴み、力任せに引っ張り店の裏口まで連れていく。周囲に人目がないことを確認してから、彼女はひざまづき少年と目線を合わせて訊ねた。  「……あんた“色なし”だね?」  大地の属性を持つ者は黄色系統。  水の属性を持つ者は青色系統。  火の属性を持つ者は赤色系統。  風の属性を持つ者は緑色系統。  アクアたちが住むエインシェントでは、誰もが魔法属性にあった髪色で生まれてくる。  だが、ごく稀にどの魔法属性も持たず白色の髪で生まれてくる者がいる。  彼らは“色なし”と呼ばれ、皆に冷遇される存在。“色なし”を恥じた親に捨てられ命を落としたり、浮浪児になったり、運良く成長して世間に出たとしても、ろくな職に就けず最低辺の生活が待っている。  「あたしら染め物師は表向き自分たちで染めた綺麗な布を売る職業なんだ。人目につく場所であんなこと言われちゃ困るんだよ」  故に安価な染料を使って自分で染めたり、染め物師に頼んで髪を染めてもらう“色なし”が後を絶たないのだ。  「……ごめん」
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