伯爵令嬢ドロテ

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「可哀想に。何も知らないのね。男の人は皆、女性らしく美しいラインに惹かれるものよ。目を逸らそうとしてもついつい、視線が吸い込まれてしまうの。  セルジュ様だって例外ではないわ。私とお話する時にはいつもここを見てくださって、私が恥ずかしいくらい」  ここ、と言いながら胸の谷間を指差すドロテ。絶対嘘に決まってる。セルジュはそんな失礼なことをするわけがないもの。  だけど、ドロテの胸は本当に素晴らしい。女の私でも目を奪われるのだから男の人はみんな見てしまうだろうな、とも思っていた。 「もし私とセルジュ様が恋仲になったら、あなたには身を引いてもらうわ。男爵家出身のあなたより、伯爵令嬢たる私のほうが正妻に相応しいでしょう。  そうなったら、あなたはどこかの後添えにでも紹介してあげるわね」  ひどく意地の悪い顔でそんなことを言うドロテの背後からセルジュが現れた。 「私と誰が恋仲になるって?」 「セ、セルジュ様!」  ドロテは突然現れたセルジュに驚いたようだ。頬を染め口をパクパクさせて焦っていた。 「ドロテ嬢、何度も申し上げた通り私はリゼットだけを愛しています。私があなたとどうこうなることは決してありません。もう、私たちに関わらないでいただきたい」  そしてセルジュは私の手を取り、行こう、と促した。 「でも……」 「いいんだ。わかってもらわないと今後のためにもならない。彼女は早くちゃんとした相手を見つけなくてはならないのだから」  そう、普通は伯爵令嬢という身分なら早々に婚約者が決まっているはず。  しかし彼女は初等部の頃からずっとセルジュを好きで、何度振られても諦めず、こうして成人後も独身を貫いているのだ。  チラッと振り返ると、ドロテは私をものすごい目で睨んでいた。  私は背中が恐怖で震え、セルジュに握られた手にギュッと力を込めた。  
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