キョリ

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「あ、ごめん」 君はそう言って一歩後ずさる。 最近いつもそう。 そうして離れる理由はなんだ? 「なんで謝んの?」 こっちは逆に、一歩近づく。 電車の中。 一緒に帰る同僚。 こうして残業終わりに、お互いの好きなゲーム実況を見て帰るのが、最近の楽しみなのに。 普通に私の手元を覗き込んでいたのに。 急に謝って離れるから。 「なんかした?」 「いや」 否定しながら、また一歩下がる。 「じゃあなんで避けんの」 「別に避けてはない」 そう言うなら。 ぐいと近づく。 君は困った顔をする。 嫌なら嫌と言えよと突く。 君はメガネを直して口元を拳で隠して。 「…あんた最近、  仕事終わると髪下ろしてるから」 「だから?」 「この距離だと、  シャンプーの匂いめっちゃするんだよ」 今度は。 こっちが一歩。 後ずさった。 「嗅ぐな」 「あんたが近いから」 こっちは君の匂いなんて、気にしたことなかった。 そんなに匂うのか? さっきまでの距離を思い出す。 顔が熱くなる。 「いちかみ?」 「銘柄当てるな」 シャンプーは変えよう。 甘くない、メンソールのやつ。 髪も帰るまで解かない。 流れ続ける動画が。 いつまでも頭に入ってこない。 終
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