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プロローグ
「もう覚悟はできたかね?」
夕食に呼ばれて席につくと、明日は晴れるかい? とでもいうような気軽さで当主が尋ねてくる。
当主就任の話か、と広希は思う。食卓でするような話ではないが、そうでなければ顔を合わせることが少ないのだから仕方がない。
しかも父に思惟を見る能力がなく、一般人の母とは不仲なせいか他に兄弟もいないのだ。逃げられるはずもないのはわかっている。複雑な気持ちを内に隠し、あいまいに微笑んだ。
「まだ若輩者ですけどねえ」
「補佐をつける」
「誰ですか、そんなの引き受けた奇特な人間」
「木崎慎也くんだ」
その名前に、軽く驚く。
彼は分家筋の人物なので、名字が違う。連城家を背負って立つ人間をサポートするには、いささか心許ない。
「裏がありますよね?」
しかも、分家が次期当主の世話を引き受けるとは思えない。
「慎也くんにはお年頃の娘さんがいてね」
あ、と事情を察する。私に出会いの場をセッティングするためでもあるらしい。
「えー、身内だと血が近いですよ」
「身内ならお前の事情を理解するよ」
一般人の母を責められたような気分になる。母は超常現象が好きで好奇心も旺盛な人だが、連城家の方が気遣って隠しすぎたことを快く思わなかったらしい。
それを踏まえて、私には最初から連城家の人間を選んでおけということなのか。あるいは能力の受け継ぎを強く意識した組み合わせか。そうなるともう政略結婚みたいなものだ。
「補佐はほしいけど、嫁はいらないなあ」
連城家の人間や思惟たちを守っていかなければならないのに自分の家族まで幸せにする、そんな覚悟はできそうにない。
そもそも能力だけを優先するなら、私より適任がいる。
「昭人に紹介したほうがよくないですか」
「彼はまだ高校生だろう」
「……ちなみに、昭人にも嫁候補っています?」
「小学6年生の女の子がいてね」
それはやめてあげて、と思う。いくらなんでも未成年すぎる。
「守護の浄火が常に幼女の姿をしているそうだから、きっと気に入ると思うんだよ」
そこは幼女趣味じゃなくて妹だからやめてあげて、と思う。
当主からひどい誤解を受けてることは昭人には黙っておくことにする、面白いので。
まあ、高校生と小学6年生も10年たてばお似合いの二人になる可能性だって、ないわけではない。
幼女のうちに会うだけ会ってみようって気持ちになるかもしれないよねえ、とこみあげる笑いをこらえた。
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