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「行くの?」
私は何も答えなかった。
ゆで上がった麺を器に入れ、出来上がったうどんを居間に持って行く。座卓にそれを置くと、ヒロは「なんで?」と私の顔を見た。
「ヒロもご飯食べてなんでしょ」
「どうして?」
「そのくらい、言わなくても分かるよ……」
ヒロは私が出て行った後、食事もろくに取らず、寒さを堪えながら私を待っていてくれたのだろう。言わなくても何となくわかっている。
そして、それはお互い様だった。ヒロはこの空気をなんとなく察してる。
私はヒロから離れ、台所の小さな椅子に座り、一人黙ってうどんをすすった。
ぽたぽたと、丼の中に涙がこぼれた。悟られたくはなかった。麺をすするふりをして、鼻水をすすった。
ヒロは台所を背に、座卓でうどんをすすっている。ぱっちりとしたスーツを着こなしながら、私と同じようにうどんをすすっている。
ヒロの麺をすする音はどんどん、大きくなっていった。大げさに勢い良くズルズルと。今までに見たことのない、豪快な食べ方だった。
それでもヒロは相変わらず姿勢は良かった。やっぱりヒロにはインスタントのうどんは似合わないと思った。
やがてヒロの後ろ姿は、涙で霞み、もうぼんやりとしか見えなくなった。
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