〇1ヒロ

1/3
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ

〇1ヒロ

 大学を出て何もすることがなく、世間をただフワフワと漂っていた私が、近所のフラワーショップの店長に捕獲されたのは、もう二か月の前の話になる。  私のセンスは、それはもう最悪だった。  いくら気をつけて花束を丁寧に作ろうとしても、お客様から「可愛らしい感じで」とお願いされても、この世のものとは思えない人食い植物のような配色になってしまうのだった。  ケイコ先輩からは、「作る花束が悪意に満ちている」とよく怒られたが、私自身は真剣そのものだった。  ただ、色彩センスが壊滅的になく、サボテンすらも枯らしてしまうほど、だらしのない私が、この仕事をまっとうにこなせないのは、当然と言えば当然だったのかもしれない。  結果、ほどなくして、仕事も店先の掃き掃除やレジ打ちなど、お花に全く関係ない仕事を任されることになった。  お花屋さんで働く可憐な少女を思い描いていた私は店先をほうきで掃きながら、ただ腐っていた。魔女みたいにほうきに跨って、どこかに飛んで行ってやろうかしら、と空想に身を任せることばかりだった。  ある日、いつものように店先の掃除に精を出していた私の元に、パリッとした高級スーツを着こなした男性がやってきた。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!