第二話

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「狼さん お願い 目を覚まして」 羊が 僕を 揺り起こす 僕は 撃たれたのではなかったのか? 「狼さん 起きてケロ  もう熱は下がったろ  ケロケロ ケロッと 下がったろ」 カエル は ふざけて 僕の鼻先で わめいている こんなバカげた天国  あるはずがない 「大丈夫 そろそろ目覚めるよ  だってほら 鼻先が  ツヤツヤと 輝いてきたから」 鳥は そう言って 僕の体の上で バサバサと 翼をはためかせて風を送ってきた 「やあ おはよう!」 僕は ゆっくり体を起こした カエルは 慌てて 羊の背中に飛び移った みんな 僕の顔を見て 嬉しそうに目を輝かせている 「ファ〜ア!  なんだか とても長い  夢を見ていたような気がする」 僕はそう言って 大きく伸びをした 「心配したわ  このまま永遠に  目覚めないのかと思った」 羊は そう言いながら ポロポロ 涙をこぼした 「何か 変なものでも  食べたのじゃありませんか?  ひどい熱で うなされていました  この水草が 効いたのかもしれない」 蛙は そう言いながら 美しい明るい緑の 小さな葉を眺めた 鳥は 説明した 「狼さんの異変に   真っ先に気がついたのは  蛙さんです  鼻先が 熱く カサカサに乾いて  呼吸が 苦しそうだと  やがて 全身が震え出し  苦しそうにもがき始めました  私は川の水を嘴に含んで運び  狼さんに 少しずつ流し込み  蛙さんは先祖伝来の薬草を探し  すりつぶして 狼さんに飲ませ  羊さんは   狼さんの体が冷えないように  夜も昼もそばにいて  あたため続けてくれたのです  狼さんが 眠っている間に  いっしょに夢を探しに行きたい  という 立派なツノを持った  牡鹿も仲間に加わりました  牡鹿は   もがき苦しむ 狼さんを見て  長い脚で遠い林まで 素早く走り  不思議な木の皮を剥いできて  歯ですりつぶしては 何度も  狼さんに 飲ませていました  その効果で  狼さんの呼吸が   穏やかになったのを診て  牡鹿は もう一度 その  不思議な木の皮を取りに出かけ  間もなく 人間の鉄砲の音が  鳴り響きました  私は 人間に見つからないよう  樹々の間を低く飛び  様子を見に行くと  牡鹿はもう虫の息でした  牡鹿は言いました 『僕の体は 全身が 薬になる  僕の血を 嘴に含んで運び  あの狼さん に 飲ませてやれ  さあ早く 人間が来る前に』  私は   牡鹿の体から泉のように吹き出す  赤い血を嘴に含むと  素早くここへ戻り  牡鹿の最後の願いを叶えたのです  すると どうでしょう  狼さんの  カサカサに乾いていた鼻先は  ツヤツヤに光り始め  へたへたに寝ていた毛並みは  フサフサと力を帯びて  立ち上がってきたではありませんか  狼さん   あなたは みんなに 愛されて  みんなの 知恵と 思いやりで  生き返ったのです    あなたは 私たちにとって  命の象徴になりました  私たちは 苦しむ 狼さんを  目の前にして  命 を 助けたい一心で  心 を 一つにして頑張りました  狼さんの命が助かるのなら  私たちの夢など叶えられなくてもいい  私たちの夢を捨てても構わないので  狼さんの命を お助け下さい  それこそが今の私たちの夢なんです  私たちは 心一つにして   そう神様に お祈りしたのです」    
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