親友

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事情を知って病室に駆けつけた私を見て、茜が申し訳なさそうに「どなたですか?」と尋ねた時、溢れそうだった涙がスッと引いていった。それは見るからにいつもの茜ではなかった。 どうしていいのかわからなくて、ベッドの横に立つ茜のお母さんを見ると、困ったような顔をしていて、言葉が出なかった。茜のお母さんはこれまで写真では見たことがあったけど、その時が初対面だった。 私が困惑していたので、病室の外に出て、茜の状態について教えてもらった。記憶については一時的なものなのか、これからもずっと続くのかはわからないらしい。 私のことを忘れてしまったなんて、そんなの信じられない。だけど、あの目はいつもの茜じゃなかった。 落ち着いたら記憶も戻るはずだと信じ、その日はおとなしく家に帰った。 だけど、翌日も茜は私のことを覚えていなかった。 更にその翌日、お見舞いに行くと、茜の病室から茜と複数の女子の笑い声が聞こえた。外からこっそり様子を伺うと、茜と同じ高校の制服の子が三人で茜のベッドを囲んでいる。そしてとても楽しそうに笑っている。 おそらく茜が中等部の頃から仲の良かったマコちゃんとミイちゃんとモモちゃんかなと思う。茜に写真を見せてもらったことがある。三人は部活が忙しいのに加え、それぞれクラスが別々になって、なかなか一緒に過ごせなくなったと茜が前に話していた。 三人は今も茜の記憶の中に当然のように存在しているのかと思うと、悔しさでおかしくなりそうだ。今の親友は私なのに。ずっと一緒に過ごしていたのに。 だけど、あの笑い声の輪の中に入る勇気はない。茜の記憶がまだ戻っていなかったら、みじめな思いをすることになる。あの子達に気を遣われたくない。 私は病院の外で、三人が帰るのを待った。
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