親友

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茜と前のような関係に戻りたい。だけど、本当の出会いを知らないままで、戻れるのだろうか。 あのことは思い出さなくていい。だって茜は真実を知らない方が幸せだ。 私は茜の親友であると同時に、彼女の万引き未遂の現場の目撃者だった。書店で参考書を鞄に入れようとする彼女を私が止めたのだ。 そのことについて茜とは特に話はしていない。誰にだって聞かれたくないことはある。 親が厳しいそうで、その辺りのストレスがたまっていたのかもしれないけど詳しいことはわからない。だけど、本当に後悔していたし、反省していた。 それに、仲良くなった今ならわかる。茜は万引きをするような子じゃない。絶対にだ。きっと正気じゃなくなるような何か特別な事情があったのだ。 未遂だったこともあり、誰にも咎められていないし、もちろん他の誰にも話していないので、そのことは二人だけの秘密だった。 私達の本当の出会いはそういう特殊なものだった。 それ以来、私達は少しずつ会話をするようになった。そして、時間をかけて仲良くなっていき、今は親友と呼べる存在になっていた。 きっかけが少し悪かっただけで、本当に友達になれたと私は思っていた。 でもそれは私だけがそう思い込んでいるだけなのかもしれない。 茜が私のそばにいるのが、監視が目的なら? 誰にも話さないように見張るために仲良くなったのなら? そしてそのことで心が疲れてしまっていたのなら……? そんなはずはないと首を振る。私達はちゃんと友達だった。楽しく過ごしていた。 でも……。不思議なほど趣味が合っていたのは、全部茜が合わせているだけだったら? 強いストレスで、記憶を封じ込めることもあるらしい。今思い出せないのは、そういうことなのかもしれない。 万引き未遂なんて、できることなら消してしまいたいに決まっている。それに関わる全てのものも含めて。 考えれば考えるほど悪いほうに考えてしまう。 茜が好きだ。幸せになってほしい。 だけど、私の存在がそれを阻んでいるとしたら、私はどうすればいいのだろうか……?
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