暗渠血海

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「わ、カメラぶっ壊れた!」  伏見は何よりも一眼レフを優先した。360度の方向から瑕の箇所を探し、どこにも異常がないことがわかると安堵のため息を漏らした。仲間のケガよりも、撮影機材の方が大事だということは一目瞭然だった。  転倒した阿久根淳がうずくまって右足首をさすっている。右足首が内側に湾曲していた。明らかに骨折している。これでは絶対に立てない。  一方、リーダー格の遠沢拳也は両手をうまく床についたので、大きなダメージは受けていなかった。遠沢はすぐに起き上がることができた。  阿久根は床を這いずりまわった。痛みがひどくてじっとしていられないのだ。  伏見はカメラを阿久根に向け、ピンマイクに向かってレポートを始めた。 「皆さん、アクシデントが発生しました。なんと阿久根淳さんが転倒し、足首を骨折した模様です。これも心霊スポットならではの事件でしょうか」  舟蟲は鼻を鳴らした。この伏見という男は冷静で自己中心的で、それでいて自分の任務は百パーセント全うしないと気がすまないのだろう。  舟蟲はしゃがみ込んで阿久根の状態を調べた。ひどく痛がっている。足首の周りが赤紫色の腫れあがっている。 「ピレイ! 車椅子!」  舟蟲は怒鳴った。  しかし、ピレイの返事がない。「ピレイ! 車椅子!」舟蟲は再度、館主の名前を呼んだ。  ピレイの姿はどこにもなかった。 「あの野郎、ちっとも役にたたねえ」  舟蟲が毒づくと、遠沢兄弟がすぐによってきて、阿久根を抱き起こそうとした。「肩につかまってください」 「う、うん」  阿久根は遠沢兄弟に手を伸ばすが、なかなか立てない。 「右足首の骨、折れた・・・こんなんじゃ、明日、面接に行けるかな。すごい大事な面接でさ、内定貰えそうなんだよ」  阿久根は今にも泣きそうな声をだした。  舟蟲は舌打ちした。「松葉杖ついてでも行って、採用担当者に根性みせてやれよ。そういうわけで、肝試しツアーは終了にしよう。怪我人が出たんじゃ、ゲームオーバーだ」  誰も反対しないと思った。舟蟲としては思わぬ形でツアー終了になるはずだった。  だが、伏見が異議を唱えた。 「まだ何も始まってませんよ。阿久根さんはさっきの待合室で休んでればいいんですよ。それとも先にお帰りして、医者に診てもらった方がいいかな」 「そうだな、今回はリタイアするよ」  阿久根は診察を選択した。  しかし、誰も彼に付き添って行こうとする者がいなかった。  
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