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コンクリートミキサー車の円筒状ドラムが回転を続けている。水とセメントと砂利が比重の関係で沈殿したり凝固したりするのを防ぐためだ。もっともそれは一般的な工事現場の話であって、蛆島が運転してきたミキサー車の中身はミンチにされた人肉だった。ドラムの内部には、ドラムスリッターと呼ばれる回転刃があって、人肉と骨をみじん切りにする構造になっているらしい。以前、舟蟲は物騒な仕組みを聞かされたことがあった。
ミキサー車の後部には舟蟲とピレイが用意した手押式の一輪運搬車が並んでいた。ミキサー車の蛆島が降りてきて、シュートと呼ばれる生コンを流す樋を一輪運搬車の荷台に接続させた。
「じゃ、いきまっせ!」
蛆島の掛け声とともに、ドラムの駆動音が大きくなった。
回転するドラムの出口から赤黒い粘液がぼとぼとと溢れだす。それは樋を伝わって、一輪運搬車の荷台に小さな山を作り始めた。濃い血の腐臭が鼻をついて、舟蟲は手で鼻を覆った。マスクをしていても独特の臭気は容赦ない。内臓や脂肪、頭蓋骨、脳漿、骨などがごちゃ混ぜになっていて、これらがかつて人体を形成していたとは思えないほどだった。
運搬車の下にはデジタル計量器が置かれていて、オレンジ色の数字が明滅を開始した。
「よし、三十キロ。次」
舟蟲はつぶやいた。こいつは人間ではない、タダの肉のかたまりなのだ。苦い唾を我慢しながら、デジタル標示を睨みつける。計量器は五十キロまでカウントできるのだが、人力で運べる限界は三十キロまでと決めていた。運搬する際に荷台のバランスが崩れてこぼしたら厄介である。なにしろ、ミキサー車から降ろした荷物は、大使館の地下二階の暗渠まで運ばなければならないのだ。
荷台がいっぱいになると、運搬車の握りをしっかりつかんで、通用口まで押していく。
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