空染と星撒

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毎日毎日。 飽きもせず。 人は空を見上げる。 特別な空? 空はいつも特別だよ。 毎日毎日。 同じ空なんてひとつもない。 彼らが染めているから。 「さて、  今日もがんばろー」 綺麗に染められた濃紺の池を見下ろす。 霧の立ちこめる乳白色の山間。 荘厳な作りの門をくぐった社の中庭。 波一つ立たない水鏡の上。 散りばめられた星たちが、ゆっくり円を描いている。 そのほとりに佇む作務衣の人影。 彼らは人間だけれど。 ここは人間界ではない。 彼らが見下ろすこの池が、地上の人間にとっては、見上げる空なのだ。 そろそろ明けなければ。 ほとりに立つのは1人の少年。 重たい水甕を持ち上げて。 うっすらと。 紫色の色水を池にこぼす。 ゆっくり、じわじわと。 色が溶け込み。 濃紺の夜が明けていく。 薄紫色の次には薄桃色。 そして真っ白な光をひとすくい垂らしたら。 その後には爽やかな水色を。 一面に広げていく。 染まる頃には次の色を準備して。 刻々と色を変えてゆく。 「おはよう、人間たち」 今日はまっさらな晴天。 射るように陽光が降り注ぐ空にしよう。 眩しいかい。 しっかり働け。 空気は冷たくひりつくぞ。 空染(ソラゾメ)がこの任について、もうどれくらい経っただろう。 物心つく前からこの社にいた。 人間の歳なら13歳になる。 毎日毎日。 人が起きる時間の空を塗り替える仕事。 鮮やかに。 穏やかに。 雲を散らしたり。 虹をかけたり。 曇天に。 雷に。 真っ赤な茜。 凍るような晴天。 毎日毎日塗り替える。
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