昔の光

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それから、20年の時を経た。 元号は明治から大正へ、三度の戦勝を経て日本国は目まぐるしい発展を遂げ、すさまじい勢いで異国の文化が流入した。 新しいもの好きな私は、生活に洋装やジャズをいち早く取り入れた。 最初の妻に先立たれた私は、妻の妹を後添いにもらい、先妻の子である一郎のもとには既に二人の孫があった。 すでに定年前であったが、文部省では出世を遂げ、室長という地位を得ていた。 誰が見ても順風満帆。 隠居した後は、好きな活動写真の研究でもしてみようかと、そんなふうに考えていた矢先のことだった。 私がそれを聴いたのは。 その日は休日。 ぽかぽかと暖かい昼下がりに、妻がピアノに腰掛け演奏の準備をしている。 縁側に座り、新聞を読んでいた私は顔を上げた。 「おや、今から弾くのかい?」 「ふふふ、先生のところで、とても良い曲を聴かせていただいたの。すっかり気に入ってしまって…私、写譜させていただいたのよ。 とても珍しい譜面なのですって」 「へえ、それはいいね。ぜひ演ってみてくれよ」 私は新聞を傍らに臥せると、ゆったりと目を閉じた。 「あら、少し緊張するわね」
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