5. 沼の底

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「三人沼の言い伝えの通り、我らはそなたの村の祖先に殺められた落武者である。しかしその後、罪を悔やんだお前たちが我らを神と祀り敬ってくれた。最早、そなたの村に恨みはない」  さらに、沙代を案内してくれた女性が、「私が生贄にされたと伝わっているようですが、私はお館様をお慕いして自ら身を投げたのです。人身御供などなかったのですよ」と苦笑し、「ここに私以外の女性に来られたら、私が嫉妬してしまいます。さあ、村へお帰りなさい」と優しく言って、若いお侍と目を見合わせ微笑み合った。 「村に戻ったら、名主にこれ以上の人身御供は不要と伝えよ」と家来のひとりが言い、「これまで通り信心深くあれば、我らそなたらの村を守って進ぜよう」ともうひとりが言って、気づけば舟の上にいたという。  村人たちは沙代の説明に喜びの声をあげた。長い間恐れていた三人沼の伝説は終わったのだ。これからは、ただ3人を神と崇めていけばいいのだ。  喜びに湧き立ち、その夜は名主の家に村人が集まり宴となって、その席で晋作と沙代が夫婦になることも決まった。  賑やかに皆が喜ぶ中、香苗だけが面白くなかった。企みが失敗したことが口惜しくてならなかった。  その時、「ごめん――ごめん」と家の外で野太い声がした。 「さて、誰だろうか。村人は皆ここにいるはずなのだが……」と怪しみながら名主が表に向かう。 「平太ではないですか? 昨日から姿が見えません」と誰かが言うので、香苗はどきりとする。
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