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1. 三人沼
小さな村のはずれに、三人沼という底なしの沼があった。
その沼には3人の神様が住んでおり、村を守ってくれているという言い伝えがあり、沼のそばには祠が建てられていた。
また三人沼が赤く染まるとき、災いが起きるとも言われており、子供たちは親から「三人沼には近づいてはならない。絶対に沼で遊んではならない」と厳しく言われていた。
さて、この村の名主に香苗という愛らしい娘がいた。上に兄や姉が何人もおり、歳が離れた末っ子だったので、皆に可愛がられ甘やかされて育った。
香苗は年頃を迎えたくさんの縁談が持ち込まれたが、首を縦には振らなかった。あまりの強情さに名主である父親が理由を聞くと、「想う人がおります」と答えた。名前を聞くと、一本木の晋作だという。
晋作は働き者で、見栄えもよく、性格もいいので村の若い娘たちの憧れであった。父親はとうに亡くなっており姉は嫁いでいて、母と二人暮らしの孝行息子でもあった。年の頃も香苗にちょうどいい。
「しかし香苗、お前は煮炊きも裁縫もなにもできないのに、晋作の家に嫁いで奥を仕切れるか。晋作の母は病気がちだと聞いている」と父が心配すると、「そんなの、お父様が女中をつけてくださればなんとでもなります」とにべもない。
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